藍星

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年末の恒例行事のほとんどに、参加することが出来ず、いつもの就寝時間よりも少し遅い時間に、私は眠った。
除夜の鐘・大晦日の歌番組・年越しそば・カウントダウン–––一年の労を労い、感謝し、良くなかったことは忘れ、次の年の平和と幸せを願う。
できることなら、一つでも多くやりたかったなぁ・・・。でも、やらなかったのではなくて出来なかったのだ。
痔病の影響で、すっかり弱ってしまい食べることも、眠ることもままならない。昨年も死の淵を何度もさまよった。
せめて、大晦日のご馳走くらいは食べたい。
その思いから、いつもよりもたくさんの夕食だった。

今年も一年、お疲れ様・・私。

家族が居間で団らんしているのを、かすかに聞きながら私は自室のベッドで眠りについた。
いつもいてくれる彼も、この大晦日ばかりは起きているのだろう。病弱な私と違って、彼は健康そのもの。楽しく新年を迎えてもらいたい。

翌朝。元日。
初日の出はとっくに登り、家族が年賀状を楽しんでいる賑わいで目が覚めた。
しかし、あまり眠れていなかったことをすぐに悟った。いつもよりも強い頭痛と倦怠感。思い返すと、テレビを見ながら盛り上がっている声や足音などで、何度か目を覚ました覚えがある。
昨夜はいつもより夕食をたくさん食べたため、空腹感はさほどない。体を起こすとめまいがした。私は再び横になった。
彼は・・いないなぁ。きっとまだ初詣にでも行っているのだろう。
再び目を閉じ、もう一度、眠った。
どれだけ眠っていたか、わからない。私の部屋のドアが開いた音がした––気がした。
足音が近づく。重たいまぶたを開けると、ベッドに腰かけた彼が、私の顔を覗き込んできていたところだった。
彼は、少しだけホッとした表情になった。
おはようと言うと、彼もおはようと返してくれた。
具合は?ご飯は食べられる?寒くない?
そう聞いてくれる彼の言葉に答える前に、私には言いたいことがあった。

あけましておめでとう。今年もよろしくね。

彼は一拍置いて
あ、うん、あけましておめでとう・・今年も・・ありがとう。

え?ありがとう?
今年もよろしく、と言われるものだと思っていたのだけれど・・。少し困惑している私とは反対に、彼は少し表情をこわばらせた。

去年の君は、いろいろ危なかったからさ。・・もしかして、新年を迎えられないんじゃないかって・・勝手になんだけど、そんな気がしてて。だから、新年を迎えてくれて、ありがとうって・・なんか、つい声に出ちゃったんだ。

真剣さと恐怖と、恥じらいを混ぜたような複雑な表情の彼の言葉に、私は愛おしさが込み上げて心がじんわりとあったかくなってきた。

もしかして、寝ている私の様子を見にきたりした?

あっ・・ごめん、起こした?御神酒飲んでるうちに、なんか不安になっちゃってさ。トイレに行ったついでとかに・・ちゃんと生きてるかな、って確認したくなっちゃったっていうか・・

もう・・おかげで、寝不足だよ。体も頭も重いんだから。新年だからって、御神酒で酔っ払うのもほどほどにして。
と、苦笑気味の私の言葉に、彼はまた、ごめんと呟いた。
お腹空いちゃったから、少し何か食べたいと言うと、彼は雑煮があるから温めて持ってくると言って部屋を出た。

頭まで布団を被り、新年早々思いかげず聞けた彼の気持ちをかみしめる。
本当は、ありがとうくらい言えれば良かったんだけど・・。恥ずかしくて、素直になれない。
想われていることが嬉しいのに。ついそれが顔に出る前に、何か食べたいと言って部屋から出してしまった。嘘ではないけど、素直になりきれない自分が本当はもどかしい。

そうだ。新年になったのだ。お正月らしく、一つ今年の目標を決めよう。

ちゃんと、こう彼に伝えよう。
 いつも私のそばにいてくれて、ありがとう
 私が生きて新年を迎えられたのは、
   あなたがいてくれたおかげだよ。

初日の出を見ることも初詣もできない私だけど、彼のおかげて、病弱な私でも新年らしいことできた。そのことも、ありがとうと言いたいけど、これは心の中にしまっておこう。

いつか素直に伝えられるその時まで。






1/2/2024, 5:51:39 AM