ほろ

Open App

小学生の頃、母が熱で倒れた日があった。
その姿を見たわたしは、母が死んでしまうのではないかと焦って、何かできることはないかと必死に探したものだ。そうして辿り着いたのは、なぜか『みかんジュースを作る』だった。

分かっている。今のわたしなら、みかんジュースを一から作るなんて馬鹿馬鹿しいと一蹴するだろう。でも、残念ながら当時のわたしは本気でそれしかないと思っていたのだ。
家中のみかんをかき集め、ぎゅうと握り、手をみかん汁でびちゃびちゃにしたのは良い思い出である。最後にちょっと砂糖を入れて、衛生観念など皆無のみかんジュースが出来あがった。それを母に渡すと、おいしいと笑って飲んでくれた。

「血は争えないってよく言うよねぇ」

今、わたしの目の前にはみかんジュースがある。ついでに、手をみかん汁でびちゃびちゃにした娘もいる。
この母にしてこの娘あり。
わたしは、娘の手作りみかんジュースを口にした。みかんの原液ってこのことかなあ、と思っている途中に、じゃりじゃりの砂糖が飛び込んでくる。決して、市販のみかんジュースみたいではないけれど。
「うん、美味しい」
わたしは、娘に笑ってそう言った。

12/29/2023, 12:23:01 PM