【始まりの中の終わり】
午前2時半。
私は小説を書き上げ、背伸びをした。
はぁっ。
疲れたっ。
ここ1ヶ月ほどずっと小説を書き続けていたので、かなり大きな達成感がある。
もう何もしたくない。
でも、まだ全体の見直しとか色々打ち合わせしなければいけないことがあるので、ここで気は抜けない。
でももう何もしたくないっ!
私はファイルを保存してパソコンを閉じた。
そして机に突っ伏した。
はあぁぁ。
小説書きたい…
さっきまで小説を書いていたというのに、何故かそんなことを考えてしまった。
こういうことはよくある。
私は、本当に創作することが大好きなんだろうなぁ。
そんな私が、いちばん好きだと思える。
小学生の時に「読書」という趣味に出会った私は、次第に小説家を志すようになった。
こんな物語があればいいのにな。
こんな人であれたらな。
その理想を押し付けるのに、執筆活動はうってつけだった。
しかし、世の中はそんなに甘くなくて、
「そんなんじゃ、小説家になれないよ?」
なんて言葉は腐る程聞いた。
「センスないね」
「まともな仕事ついたら?」
「いい加減現実見なよ(笑)」
そんなの、言われなくたって理解してる。
悔しいことに、次第にもう一人の私まで罵詈雑言を吐き出すようになった。
それでも、自分のセンスをYesと信じてやってきた。
この前、ちょっとした賞を受賞した。
芥川賞みたいな大きな賞ではないのだけれど、あるコンクールに応募して入賞した。
そのことを知って最初に思ったのは、
「ああ良かった、報われた」ということだった。
周囲の人に、自分に才能を否定され続けたけれど、
私は腐ることなく何年も努力を続けてきて、
そうして掴み取った栄光は何よりも眩しかった。
とはいえ、小説家で生計を立てるのは本当に難しい。
1回受賞したからといって、いきなり億万長者になれるわけではない。
小説家とは、そういう仕事だ。
現に、私は小説家以外にも副業を幾つも行っている。
そうしないと生き抜けることはできない。
それでも、自分が本当にやりたいことができるのなら、
これよりも幸せなことはないだろう。
しばらくぼうっとしていたらしい。
30分も経っているではないか。
もう寝なきゃ…
私はベッドでしばらく眠ることにした。
リビングから寝室に移動するとき、
ふと外の空気を吸いたくなった。
ベランダに出ると少し冷たい風が頭を撫でてくれた。
最近、少しだけ冷えてきたような気がする。
気のせいだろうか。
見下ろすと、若い二人組が歩いているのが見えた。
二人とも大きな荷物を背負っていて重そうだ。
そして仲が良さそう。カップルかな?
私は人間観察が好きだったりする。
他の人も、自分と同じように一喜一憂しながらも毎日を生きていることの不思議。
他の人の生活を想像することが好きだ。
しかしあのカップル、よくこの時間帯に出歩いているな。
私がここに引っ越して3年ほど経つが、この時間帯に外に出れば必ずあの人達と会っているような気がする。
なぜだろう。
そこで私の脳には様々な想像が流れ込んできたが、今は一旦シャットアウトすることにした。
今は睡眠が最優先、生活習慣には気を遣うべき。
私は中に入り、廊下を進み、ベッドに潜り込んだ。
目を瞑り、私は最後にこう思った。
夜が明けるときも、私は一日の終わりにいるのだろうな、と。
9/13/2024, 12:26:11 PM