何せわたくしは人混みが嫌いなものですから、お祭りという人がわらわらと集まるというものには行った事がありません。西南に在る硝子戸を開けて、漂って来るお囃子を盗み聴くだけで十分なのでした。それだけで十分、『お祭り』を楽しめていたのでございます。
ですが、今になって思い知ったのです。わざわざ重い硝子戸を開ける程には好きなのなら、いっぺん行ってみたのなら良かったのだと。
お囃子はもう殆ど聴こえません。だんだんと小さくなってゆきます。お祭りはじきに終わるのだそうです。最早人混みと呼べるほどの人が、お祭りにやって来ないから。
わたくしにはもう知る手立てはございません。嫌いという思いが、好きという思いに軽々と塗り替えられていく鮮やかな感情を。今更硝子戸から飛び降りた所で、お祭りにはもう間に合わないのですから。
ああ、ずっと好きだったのに。行けば良かったなあ。
そう思うこの気持ちも、お祭りが終わりを決める前に口にすべき事だったのでした。
7/28/2024, 6:09:19 PM