NoName

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君は、冬の日坂道で滑って、車に轢かれて死んだ。

と思っていたのに。
目の前には、君の姿があった。
傷ひとつない、いつも通りの笑顔を浮かべる君。
「なんで」
君の目を見てそういうと、君は椅子から立ち上がって、こちらに歩いてきた。
「痩せちゃったね」
君の手が、俺の頬に触れる。
優しく撫でるその手は、温かい。
「…そうだね。痩せちゃった」
必死に、口角を上げて笑って見せる。
「ごめんねえ」
眉を顰めて、申し訳なさそうにする君。
「ほんとうに、死んじゃったんだ」
この温かい手の体温も、透けてない君の身体も。
生きていると思わせるには、充分すぎるのに。
「また、会いに行くからね」
「ほんとうに?」
君の手をとって、優しく握りしめる。
もう会えないだとか、もう触れられないって考えていたら、気持ちがぐちゃぐちゃになってしまう。
君が、目の前にいるのに。
「本当だよ。絶対」
俺の頭をなでて、君は、俺の大好きな笑顔でふんわりと笑った。
「忘れないでね」
そう言う君は、天使みたいに美しかった。
「当たり前でしょ、俺が忘れるわけないじゃん」
君のこと、ずっと考えてるよ。

3/24/2025, 10:21:44 AM