枕に顔を埋めてジタバタしたくなるような黒歴史がある。
それは中学時代、帰宅後の秘密の日課である。
その①、家に誰もいないことを確認。
その②、戸締まり確認。
その③、アクションスタート。
私「ゴホン。……待って!誤解なの、私本当にあなたのことが……」
私「信じられるかよ!お前も俺を利用してたんだろ!」
時は大厨二病時代、私の趣味はお気に入りの少女漫画を家で音読することだった。
お分かりいただいているとは思うが、劇団ひとりである。
妄想の世界でイケメン達が私を取り合っている。
私「あなたが好きです!付き合ってください!(渾身の叫び)」
完全に自分の世界に酔いしれていた。
しかし、ふと気づく。
いつもより声がよく通るような?
このあたりで、体に満ち溢れていた謎の万能感とエネルギーが消えた。
なんとなく直感で分かる。これ、私の声の調子がいいとかそういうのじゃなくて、環境の問題だ。
背筋が冷たい。私はベッドの上で寝転がっているのに、ミシ、と床がきしむ音がする。
いや、そんなはずない、だってこの家には私以外誰もいなかった。
しかし確実に背後から冷気を感じていて、腹をくくった。
いやだなー、怖いなー、と思いつつ、いちにのさん、で振り返る。
自室のドアが、開いていた。
「……ただいま。」
「あ」
「……」
「……」
「その、ごめんね、ノック忘れてた……」
「……うん」
お前いつもしてねーだろ、というツッコミはぐっと飲み込んだ。普段のその辺のデリカシーの無さを改めてもらう絶好の機会だ。
というか、この突発イベントがせめてそれくらいの良い変化をもたらしてくれないと、割に合わない。手放したくても手放せない理性が頭の片隅でそう囁いていた。
「……今日、お母さん仕事半休。」
「うん」
「……スーパー行ってて、今帰ってきて、靴あるの気づいてさ」
「うん」
「…………アイス、買ってきたんだけど。食べる?」
「うん」
遠くからそっとクーリッシュが差し出される。私は動物園の猛獣か?
小声かつ高速でお礼を言って受け取るも、目を合わせられず、ひたすらにパッケージのロゴを見つめていた。意外とシンプルだった。
沈黙があまりにも重く、地獄のような時間だった。
「……えっと、今度からはそっとしておくから」
「もうやめてください」
こうして私の厨二病は痛みとともに終わった。
#優しくしないで
いたたまれないので
5/2/2023, 4:25:32 PM