此処は何処だか俺には分からない。
だが、一つ言えるのが、此処では法が通用しない。
通用するのならば、抑誘拐なんてしないだろうけどな。
俺は元々一般家庭で暮らしていたが、幼い頃に両親と死別した為、孤児となった俺を引き取る親戚はなく、数年は親戚にタライ回しされていたが、中学を卒業したその日に親戚が集まり、「中学まで面倒を見たのだから、今後一切関わるな。」
その言葉を皮切りに多少の金銭を渡され、文字通り家を追い出された。
自由なのは良いが、これからどうするかな。と考えていたときに誘拐された。
親戚が所謂名家というものだったから、周りの話で此奴が誘拐された。や誘拐されかけた。などは聞いていたが、本当にされるんだな。と他人事の様に考えていた。
嗚呼、確か彼奴が言っていたな。
「君には本当に危機感がないから、何時何時でも気を抜かないでよ?ちゃんと助けを呼ぶんだ。
絶対に助けに行くから。」
目隠しが外されると大きな窓があって、小さな通気孔に、一つしかない扉。
窓に映るのは白衣を着た大人が話し合っている。
悲鳴が聞こえた。
辺りを見渡すと俺を含め、十人の男女がいた。
老人や幼子まで居るところをみると年齢は関係無いようだな。
謎の液体を首に注射器で打たれた。
数分経つと血管までもが鼓動し始めたかのような感覚に襲われた。
…息が、続か、な、い…
バタッ…
誰かが倒れる音が響いた。
その音を皮切りに次々と倒れる音が響く。
俺はというと段々と気持ち悪い感覚は薄れていって、最終的には治まった。
白衣の大人たちは何か興奮したように鼻息を荒らげ、真剣に語り合っている。
その時、俺の背には純白で柔らかい翼が、両親を喪ったショックから白くなった髪は暖かみを持つミルクティー色に変化し、薄墨色だった瞳は透き通った水色に変貌していた。
その日から俺はぐちゃぐちゃになった人を治したり、草花や木を成長させたりと超人的な力を毎日使っていた。
一日の終わりに飲まされる錠剤があるけど、あれは何なんだろう。
でも、口には出さない。
前に余計なことを言ってしまったら、小さい子供が僕の眼前で斬られたのだ。
咄嗟に治そうとしたが、直ぐに別の部屋に移されて、その部屋には一つだけモニターがあった。
モニターに映った部屋ではさっき、斬られた子供の死体がぐちゃぐちゃにして、そのまま放置されていた。
その後は分からない。
だが、その後は必要最低限の言葉しか喋っていない。
今日も人を治したけど、治す人は何であんなに傷付いているんだろう。
何時もだったら押し込んでいる筈の気持ちが溢れだしてくる。
「此処から…出たい、助けて…」
ふと、中学のときの彼奴の言葉を思い出した。
「助けてくれ…璟…」
「あの時の約束、覚えててくれてたんだね。
君を救いに来たよ。」
『たった一つの希望』
三月三日 十三時四十四分
loto.
3/3/2024, 4:41:16 AM