今年は慌ただしくて花見に行けなかったけれど、
全て散ってしまう前に少しでも、と
仕事の後、お前と夜桜を眺めながら帰った。
儚いくせにどこか柔らかな力強さも感じさせる、
闇に浮かぶ桜たち。
ふとお前が俺を見て笑った。
「頭に花びら乗ってる」
不意に伸ばされた手。髪に触れる指。
息が止まる。
……動揺を、悟られてはならない。
離れていく指を目で追う。
「……お前の髪にも、ついてるぞ」
えっマジで、取ってー、と頭を差し出されて
平静を装いながら同じように取ってやった。
夜の闇の中で良かったと心底思う。
顔が熱い。心臓が痛い。
「さんきゅ」
とれたぞと声をかけてやれば、いつもの笑顔。
そのまま桜吹雪を暫く二人で見上げていた。
見上げながら、気付かれないように。
指に摘まんだままだった花びらを、
俺はこっそりとポケットに忍ばせた。
4/18/2023, 9:59:42 AM