ヒロ

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昔から歌うことが大好きで。憧れ続けたスターダム。
歓声にスポットライト。私は今、夢の大舞台に立っている。

内気な自分には厳しい世界。ここへ辿り着くまでに、苦しみ悩む出来事も色々あった。
今でさえ、この期に及んで手が震える。ギターを握る手も汗ばんで、意識をしたら、足まですくんでしまいそうだ。

「待ってましたー!」

そんな弱気を打ち払うようにして。
歓声に紛れて、一際大きな声が、陰る心の闇を切り裂いた。
俯きかけていた顔を上げれば、目の前には大勢の観客。
それなのに、どうしてかな。
遥か向こうの客席に、手を振り私にエールを送る貴方の姿が目に映ったの。
まるで貴方の方がライトを浴びているかのように、はっきりと。可笑しな話ね。
けれどもこうして、また一つ貴方に助けられた。

貴方は覚えているかしら。
学生時代、思い切って出場した歌唱コンテスト。
人前で歌うのは初めてで。本番になってから、舞台の上で尻込みしてしまった情けない私。
けれどもあの時も、貴方は同じように励まし、勇気づけてくれたよね。
「待ってましたー!」
その一言に、どれだけ気持ちを救われただろう。
力をもらったあの日から、ずっと貴方に焦がれている。
そして、夢を追い求める気持ちにも、火がついたの。

挫けそうになるどんな時も、いつでも貴方のエールが背中を押して、立ち止まる私を導いてくれた。
ずっと見守ってくれて、ありがとう。
おかげでここまで上って来られたよ。
勿論、恋心だけで駆け上がれる道ではなかったわ。
それでも、貴方に感謝を伝えたい。
今日披露する新曲は、貴方への想いと感謝を込めたもの。
さあ、鈍感な貴方は気が付くかしら?

私の素敵なファン一号。
私を救うヒーローで、唯一無二の王子様。

精一杯歌うから覚悟して。
きっと貴方を振り向かせるわ。


(2024/04/16 title:024 夢見る心)

4/17/2024, 9:58:25 AM