わをん

Open App

『何気ないふり』

人で賑わうイベント会場。その一角のスペースを目指して私は歩いている。ネット上で神と崇める絵師さんのオフラインイベント参加のお知らせが投稿されたその日に夜行バスを手配し、来たるべき日に備えて服屋を巡り、差し入れのお菓子を吟味した。寝不足気味の早朝からイベント開場待ちの列にも並んで携帯食を齧りつつSNSで絵師さんの行動を逐一チェック。イイネを飛ばしつつ士気を高めていった。
そして開場後の今。カタログを手にそのスペースを目指して歩き、けれどまっすぐに向かう勇気がなぜか持てない。胸の中に沸き立つ思いはめちゃくちゃにあるのに何気ないふりで一度素通りしてしまった。カバンの中の差し入れを思うと手に汗が浮かぶ。端まで来てしまったのでもう一度戻るために隣の列の端から端まで歩き、辿り着いた二度目の景色に緊張が隠せない。このまま帰ってしまおうかと一瞬思うが、本末転倒さに心の中で首を振る。視界には絵師さんがすでに入っている。勇気を出して行くしかない。今日はそのために来たのだから。

3/31/2024, 5:16:11 AM