たまき

Open App

#101 秋風


立冬は過ぎたし、東京で木枯らし1号を観測したニュースも見たよ?
見かけによらず何か冬に関係が?と思ってネットで調べたけど関係性は見つからなかった。
が、知識は深まった。
(少々手直ししました。)

---

いつもと同じように過ごしていたはずが、何故?

文字の海から無理やり引き上げられた僕には、訳がわからなかった。

交際のきっかけにもなった二人の共通の趣味は本。
さすがに好みは違ったが、逆にそれを利用して、本屋デートの時は購入したものを読み合いすることにした。2年前の付き合い始めたときに二人で決めたことだ。

なのに、彼女が突然怒り出したと思ったら去ってしまった。戸惑いで体が硬直し、引き留めることはおろか、立ち上がることも出来なかった。

気持ち良さで選んだ秋晴れのテラス席。
そのときの彼女は確かに笑っていた、はず。
空いた隣の席を吹き抜けていく風が、
今は妙に肌寒い。


屋内へと続くドアから視線を外し、彼女が座っていた席を見ると、
汚れるのを避ける為、本を読む時には注文しないはずのアイスクリームが置かれていた。
かなり溶けてしまっているが、量を見るに結構食べ進んでいたようだ。

更に視線を手元まで下げると、
手の中には僕が買った読みかけの本がある。


正直、彼女の変化を読み解くより、本の続きが気になると思ってしまった。

…ああ、原因は、これか。

そういえば、呼ばれていた気がする。
本を置いて欲しいやら、こっちを見てとか。
僕は、何と答えたんだっけ。

からん、ころんとレトロなベルの音がドア越しにくぐもって聞こえる。

本か、彼女か。
秋風が僕の心までも冷やしていく。

僕は座る姿勢を直して、本の文字に目を戻した。


いつも通りの時間を一人で過ごした後で会計に向かうと、二人して頼むコーヒー代だけが払われていた。

残されていたアイスの代金が意外と高く、
財布にまで秋風が吹いた。

彼女がそうした意味を、僕は一応考えたが、
も手遅れだろうし、もういいかと結論付けた。


---

彼女は、付き合いを重ねていくうちに本屋デートの彼が塩対応になってきたことに不満を溜めていました。本を読み合うときのカフェ代は交代で出し合うルールで、今日は彼の番でした。

彼にアイスを買ってもらって嬉しい、
少し味見をしてもらって、彼の好みだったら。
次のデートは本を置いてアイスを一緒に食べながら、ゆっくり顔を見ながら話したい…

彼が本好きなのは承知の上、それでも以前のように本より自分を見てほしいとアピールしていましたが届かず。彼女の気持ちは秋風のごとく冷めてしまったようです。

立ち去ったのは衝動的でしたが、彼が追いかけなかったことで決定的となりました。


秋風とは、文字どおり秋に吹く(涼しい)風のこと。また、男女の仲が冷めることや懐の寂しさを表現するときにも使うようです。

ちなみに、秋風を送るという言葉には終わりの意味合いがあるようです。フーフー。

11/14/2023, 2:00:32 PM