お題:秘密の箱
タイトル「魔女ロゼ・アルマーニャと呪いの箱の伝説」
―――――――――――――――――――
:プロローグ【国家魔女試験】
「えー……受験番号666番、ロゼ・アルマーニャ。 前に」
「は、はい!」
――ここは【ラインベルト王国】の首都「マルゼンバルト」中央広場。
晴天の下、大聖堂前の広場に集まる人々は、皆どこか緊張した面持ちで並んでいる。
それも当然だ。
なぜなら、今日この場所では名誉ある「国家魔女資格」を得るための選定試験が行われているのだから。
国家魔女――それは、疫病や襲い来る魔物などから人々を守る才ある魔女達の集いにして全ての魔女の憧れ。
「では、準備は宜しいですかな? 良ければ早速始めなさい」
貫禄のある声で、試験官の一人がロゼに呼びかける。
ロゼはこくりと頷くと深呼吸をひとつ、前を向く。
空に手をかざし、意識を集中させ、並べられた的に狙いを定め詠唱を始める。
『大いなる数多の神々よ……』
詠唱と共にロゼの周囲に魔力の奔流が生まれ、頭上に集まって行く。
「おお……これは……」
試験官も群衆も、ロゼから感じる凄まじい魔力に圧倒され、思わず息を飲む。
『その叡智を我に今授けたまえ! さればその力で恐るる全ての災厄を消し去りたもう!!』
ロゼの頭上に渦巻く魔力の塊は、放つ波動だけで地鳴りを起こし、どんどん膨らんでいく。
群衆がわっ、と歓声を上げる。
試験官も思わず身を乗り出し、ロゼの魔法に目を見開く。
『我の命に……呼応し! 立ち塞がる魔を払い道を開け!!』
ぽむっ――。
「……ん?」
群衆と試験官全員が呆気に取られる。
あれだけ派手な雰囲気から放たれたのは、ちょっとした火花と煙だけだった。
「あはは……ちょっと押さえすぎちゃいまして……。 その、もう一回やらせてもらえたりとか……」
「……666番、もういい。 帰りなさい」
「そ、そんなあ……」
ロゼは泣きそうに顔をくしゃくしゃにしながら、肩を落としてその場を立ち去った。
:第一章【ロゼ・アルマーニャ】
「ああ……なぜ私はいつもこうなるのかしら……」
町の端にある小さな酒場のカウンターで、ロゼは「不合格」の太鼓判が押された羊皮紙を片手に握り締めながら、独りでミルクを喉に流し込んでいた。
……あの試験官たちと群衆の冷たい視線は、暫く夢に出そうだった。
「あ~あ! 魔力には自信あるのに全然制御出来ないし! ……思いっきりやるわけに行かないしなぁ……」
――実は、ロゼは伝説の大魔法使いの家系に生まれた魔女だ。
扱える魔力の量だけなら、王国中を探しても並ぶものは居ないだろう。
しかし、逆にそれが仇になり、制御が全く効かないのだ。
昔、小さい頃に『指先から蝋燭程度の火を灯す呪文』を唱えた時には、隣町から見える程の火柱が上がり大騒動になった事もあった。
それから、ロゼは限界まで魔力を押さえる訓練をしてきたが……成果は出ず今日に至る。
「……私も、おばあちゃんみたいな立派な国家魔女になりたかったのになぁ」
ロゼはため息を一つついて立ち上がり、革袋から銀貨を数えて出し、カウンターに置いて店を出た。
酒場から出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
ランタンに火を灯し、我が家を目指して歩き始め――。
「んぎゃあっ!!」
道に落ちていた何かにつまづいて、盛大に転んだ。
「あ~もう! 今日はほんとに散々! イヤーっもう!! ……むきーっ!!」
鬱憤が限界に達したロゼは、道に寝転がったまま駄々っ子の様に暴れた。
酒場の近くだったせいで酔っぱらいと思われたのか、道行く人も何も言わず避けて行くだけだった。
暫くして落ちついたロゼは、自分がつまづいた何かにランタンを向けた。
「……何これ。 何か、嫌な気配……」
そこに落ちていたのは、オルゴールぐらいの大きさの、金属で出来た紫の箱に、どこか禍々しい雰囲気のする金の装飾が施された妙な箱だった。
ロゼが足を引っ掛けて蹴り飛ばしたのにびくともしていない所から、相当に重たい物だと分かる。
「この感じ……まさか」
ロゼが、ごくりと唾を飲む。
箱の隙間からは、絶え間なく邪悪な魔力が微かに漏れ出ていた。
次の瞬間――耳をつんざくような咆哮と悲鳴が、町のあちこちから聞こえた。
―――――――――――――――――――
第二章【襲来】
【精霊の加護を我が手に! 大地よ! 鳴動し邪悪を退けよ!!】
国家魔女たちが隊列を組んで大魔法を詠唱する。
首都マルゼンバルトの夜空に、真昼のような閃光が連続して炸裂し、轟音が絶え間なく鳴り響いていた。
――それは、突然の出来事だった。
首都全体を囲む様に大地が裂け、おびただしい数の魔物達がそこから這い出し、町を襲い始めたのだ。
逃げ惑う人々。
倒せども数を増す魔物の群れ。
押され、倒れていく兵士と国家魔女たち。
町はもはや、収拾困難な状況に陥りつつあった。
「避難を!! 早く!! こっちに!!」
兵士たちが、市民を中央広場に誘導する。
全方向から魔物の群れが町を囲んでおり、もはや逃げ場など何処にも有りはしなかった。
その頃、ロゼは、町で一番高い時計塔の最上階を目指して駆け登っていた。
「あの箱……! 確か、おばあちゃんの本にあった……」
本には確かこう記されていた。
『災厄が訪れるその時、その地には何処からともなく【箱】が現れる。
その箱には、この世界の全てを滅ぼす呪いが詰まっているのだ』、と。
息を切らしながらも、何とか時計塔の最上階にたどり着いた。
だが……眼下には、悲惨な光景が広がっていた。
「そんな……こんなことって……」
町は、あちこちから火の手が上がり、壊滅状態だった。
国家魔女たちの魔法ももはや中央広場を守るのが精一杯の様子だったが、魔物の数はさらに勢いを増していた。
その光景を見て、ロゼは覚悟を決めた。
「私が……やるしかない!!」
ロゼは、生まれて初めて自身の魔力を全て解放した。
身体がバラバラになりそうな程の膨大な魔力が際限無く溢れてくる。
【……大いなる数多の神々よ】
魔力が、ロゼの周りを渦巻き始める。
異変に気がついた魔物達が、一斉にロゼの居る時計塔に向かってくる。
しかし――中央広場からの援護射撃が、魔物達の足を止めた。
「誰だか知んないけど、何この凄まじい魔力の波動……!」
「この魔力……何処かで?」
「――っ! あの時計塔に近づけさせるな!!撃ちまくれ!!」
中央広場から、国家魔女たちの叫ぶ声が聞こえる。
その隙を逃さずに、ロゼは最大火力の魔法を詠唱する。
【その叡智を我に今授けたまえ――さればその力で恐るる全ての災厄を消し去りたもう!!】
激しい魔力の波動が衝撃波となって絶え間なく空間を切り裂き、もはや魔物達は近寄る事すら出来なくなっていた。
【我の命に……呼応し! 立ち塞がる魔を払い道を開け!!】
ロゼが天高く右手をかざすと、時計塔を中心にして、まるで隕石が衝突したかのような衝撃波と閃光が夜空に爆ぜ、魔物の群れを一匹残らず消し飛ばした――。
―――――――――――――――――――
:エピローグ「未来」
あれから数年の時が経った。
あの日の出来事は『伝説の大災害』として歴史に刻まれ、町には至るところにその痕が遺されていた。
中央広場には、あの時犠牲になった多くの人たちを弔う為の石碑が建てられていた。
そして少し離れた所にある時計塔前には、町を救った『伝説の魔女』の像が建てられていた。
あれからロゼは、自身の全ての魔力を注ぎ放った大魔法の反動で殆どの魔力を失ってしまって。
せいぜい、指先に蝋燭程度の火を灯すのが精一杯なくらいになってしまい……国家魔女は諦めざるを得なくなってしまった。
そんなこんなで色々あって、現在ロゼは町の外れにある小さなパン屋で働いていた。
「ロゼー!? 焦げてるっ! てかパンが燃えてる!!」
「わーーー!? 水、水、水ーーー!!」
伝説とは、その名の通り遠い遠い過去から未来へと伝えられていくもので。
それが嘘か本当かなんて、誰にも確かめようがないものが殆どだ。
しかし、少なくともこの町を救った伝説の魔女は、今日もこの町の片隅で、誰もあずかり知らない所でこっそりと平穏に暮らしているのだった。
10/24/2025, 3:22:02 PM