ヒロ

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何で。何でだよ。
勇者だの何だのと、一世一代の大舞台に引っ張り上げられて。
皆のためになるのならと、こうして魔王も打ち倒したのに。
急転直下。青天の霹靂。
故郷へ帰って呆然とした。
大役を終え、いの一番に会いたかった幼馴染みは、とうの昔に亡くなっていたらしい。
僕が旅立ってすぐのこと。急襲した魔物にやられたのだと。
嘘だ。そんな大事な話、どうしてずっと黙っていたんだよ。
世界を救えば、また大切な人と笑って過ごせると信じていたのに。
何ですぐに知らせてくれなかったんだ。
今更になって、こんな裏切り許せない。
些細な願いも叶わない。
君が居ない世界なら、平和な世界に意味もなければ興味もない。
慰めてくれる誰も彼も、何食わぬ顔で僕を騙し続けた嘘つきで、人の面を被った鬼だらけ。
今までなら曇って濁った心でも、君の笑顔で晴れたのに。
いくらあの眩しい笑みを思い描いても、すべて黒い感情に飲み込まれ、奥底の闇へと沈んでいく。
最期に浮かんだ灯火も、虚しく揺らいで消え失せた。

ああ。もう、どうでも良い。
さようなら。僕の愛した美しき世界よ。
これから先は、僕がこの世の魔王となろう。
新たな勇者が顕るその日まで、僕と一緒に戯れようか。
遠慮は要らない、さあ共に。
地獄の扉を開けるとしよう。


(2024/09/02 title:053 心の灯火)

9/3/2024, 3:37:44 AM