「こんな夢を見た、っておまえわかるか?」
君がそう切り出した。
妙に真面目くさった顔をしている。
「夏目漱石?」
すぐに影響を受ける君は、どうやら最近「夢十夜」を読んだようだ。
僕はそんな君の出鼻を意地悪くくじく。
「ああ。知ってるのか?」
「うん。高校の教科書に出てきたから」
「へえ」
なんだ、つまらん。
君は興醒めしたようで、そう言ってあさっての方角を向いた。
「僕は結局よくわからなかったよ、あの話。死んだ女にまた会うとか、百合の花とか」
「そりゃ夢だからな。支離滅裂なもんだ」
「そういうものか」
「そういうものだ」
僕はリアリストだけど、君はそうじゃない。
支離滅裂な誰かの夢にも、そういうものだと入り込む。
話の中でもう一つどうしても理解できないことがあった。男が言われるまま、女を百年待ったこと。
「僕なら死んだ相手のために、百年も待ったりしない」
「俺は待つだろうな」
「じゃあ僕が先に死ぬよ」
「それがいい」
僕が間違っていたのかもしれない。
主人公は君で、きっと僕は待たせる側なんだろう。
そしたら君は、夢を見ながら待っていてくれるんだろ。
その後で、僕は支離滅裂な君の夢を聞くんだ。
1/23/2024, 2:54:13 PM