Sweet Rain

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「死体を丸呑みする手品を知ってるか?」

 ――なんの脈絡もなく、そう彼は尋ねてきた。
 いや、と困惑しながら僕は相槌を打つ。

「こいつは俺が発明したんだが、まさに革命だ」
「いいから、もったいぶるなよ」

 仰々しい語り口調の彼に、早くも苛立ちが芽生える。
 彼は悪びれもなく やれやれと首をすくめてみせた。

「手順は簡単さ。適当な大蛇を連れて来るだけ」
「……死体はどう用意するんだ」
「君に任せるよ。長年 手品師の助手を務めた君に、ね」

 ……なるほど、つまりはこういうことか。
 そして僕は、一息に彼の首筋をナイフで掻き切った。


 手品の催し物で用意された大蛇。
 どうやら長距離移動と空腹で一触即発だったらしい。
 
 イベントに出演する手品師として大蛇の様子を確認しに檻へ立ち入った彼は、瞬く間に襲われ、半身呑まれた。
 
「……優秀な人だったのになぁ」

 死体となった彼は、大蛇にズブズブと呑まれていく。
 何のひねりもない、手品ですらない ただの事故。
 
 死ぬ間際は こんなにも人をつまらなくするのか。
 尊敬していた分、失望感が大きい。
 
 どんな芸の天才も 最期の刻は凡人に成り下がる。
 そんな、不条理。


  2024/03/18【不条理】

3/18/2024, 4:18:39 PM