アシュリー

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『声が枯れるまで』

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私には1人、幼なじみがいる。家が隣で、昔からよく、暇さえあれば遊んでいるほどの仲だ。幼稚園から小学校、中学、高校と、ずっと一緒に過ごしてきた。お互いに引っ越すこともなかったので、ずっと家が隣同士。私達の自慢のひとつだ。

その幼なじみが、高校卒業と同時に引っ越すらしい。
いや、引っ越すことは仕方がないと思っている。けれど、引っ越すことを聞いたのが幼なじみからでなく、共通の、しかも高校からの友人だったことが、気に食わない。そして、今のところ、私は幼なじみ本人から引越しの話を一切聞いていない。本人もなんでもないように接してくるので、なんだか変な感じだ。
仕方ないので、高校の友人に色々と聞いてみることにした。どうやら、引越しは卒業式の次の日らしい。頼むから、このまま何も言わずに勝手に引っ越すことはやめて欲しい、と思うばかりだ。
とりあえず、あちらが普通に接して来るのなら、こちらも普通に接するだけである。いつも通り一緒に登校して、いつも通り騒いで、いつも通り一緒に帰って、いつも通り遊んで…

適当に過ごしていたら、時間の流れもいい加減になる気がする。
なんだかんだで、結局本人から引越しの話を全く聞くことなく、全く聞き出すことも出来ず、卒業式を迎えてしまった。

卒業式が終わって自由行動となった時、幼なじみに引き止められた。
そこでやっと、本人から引越しの話を聞かされた。どうやら、引っ越すまでは普通に遊びたくて内緒にしていたらしい。…家が隣なので、ずっと引越し業者らしき人が出入りしているのを見ているのだが。
どこに引っ越すのかと聞いたら、隣の、さらに隣の都道府県らしい。家族で電車に乗って移動するのだと。


改札まで見送りに来た。
本当はホームまで行きたいが、そのためには切符かICが必要だ。移動する訳では無いので、入るわけにいかない。
幼なじみが改札を通っていく。たかだか数メートルなのに、壁があるかのような感覚になる。
幼なじみがそのまま進む。もう少ししたら、本当に物理的な距離という高い壁が生まれてしまう。

「待って!」

思わず呼び止める。幼なじみも、急な私の声に驚いたようにビクッと反応して、振り返った。

「またいつか、絶対遊ぼうな!!」

人混みで騒がしい駅の中、それにかき消されないように、必死に叫び続けた。
少し遠くて見にくい幼なじみの目元が、少し光っていたような、そんな気がする。

10/21/2024, 2:58:01 PM