ぱちり、と瞬きにも似た合図が聞こえた。
じー……っと音を立てて、レンズの付いた機械が小さな紙に思い出を現像していく。私の掌の上で形を成した思い出は、私の記憶の中に存在する光景よりもずっと鮮明に映っている。
そう思って、脳の奥に仕舞い込まれた記憶を掘り起こしてみると、いずれも写真のように日常の一瞬が切り取られた画ばかりだ。写真の技術は人が造り出したものなのに、些かそちらに引っ張られているらしい。賢いはずなのに、人は何処か間抜けだと他人事のように考え、技術の詰まった箱を机の上に置いた。
箱を置いたその足で本棚へと向かい、棚から一冊のアルバムを取り出す。少し古びたそのアルバムには、高校時代の自分達の写真がぎっしりと収められている。懐かしい思い出だ。何気なく最初の方を開き、一枚一枚ページを捲ることについ夢中になってしまう。早送りをするようにアルバムの中の時は流れ、高三の時の写真の並んだ一番新しい見開きの隅に、空いたスペースを見つけた。そこに、たった今現像した写真を挟んで、透明なシートの上からそっと撫でる。映した写真も、記憶に眠る思い出たちも、自分の大切な宝物だ。窓から届く温かい光が、そっとアルバムを包み込む。写真越しの彼等が、記憶の中で静かに微笑んだ。
4/28/2023, 12:36:58 PM