いちましろう

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ぼくだけ、になった。そうおもって、こころがつんとしたけれど、めのまえにきれいなゆうやけがあって、ぼくはぼくだけなのをすぐにわすれた。いつのまにおれんじいろ? めとくちでゆうやけにきくと、さあね、といじわるくくもをおよがせた。いつまでおれんじいろ? まけじときくと、こんどはなにもこたえず、ぼくにおおきなせをむけた。せをむけてもゆうやけはきれいなおれんじいろだった。ぼくは、じゃあもうかえるね、とゆうやけのせなかにむかってつよいこえでいった。でもゆうやけはこちらをふりかえらずに、えらそうにくもをひきつれて、えらそうにぼくのまえをずんずんあるいていった。もしかしたらゆうやけもそっちのほうがくにいえがあるのかもしれないな、とぼくはおもった。ぼくはいえにかえるとまたぼくだけになることをおもいだし、またこころがつんとした。でもやっぱりゆうやけはずんずんあるいていった。しだいにぼくのいえがみえてきた。ゆうやけはひとあしさきにかえったとでもいうように、いえのかべをきれいなおれんじいろにそめていた。ぼくはいつもそうするように、いえのなかにむかって、ただいま、といった。

7/18/2021, 11:17:20 PM