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冬へ(オリジナル)

我が社はそこそこみんな仲が良い。
良い雰囲気で仕事ができているが、きっとどこもそれなりに問題児はいるもので。
そして、我が社も例外ではない。

本日は仕事終わりのロッカーで、仲間と楽しくおしゃべりをしていた。
話題は、とっても面倒で変人な同僚のこと。
彼女は正義の範囲がとても狭く、高圧的に他人を叱るのが好きで、他人の意見を受け入れない頑なさがあることから、我々は陰で「姫婆(ひめばあ)」と呼んでいた。
もちろん、彼女は先に帰っていて、ここにはいない。
「ねぇ、姫婆、今日もやっちゃってたよ」
「えーなになに?」
「イライラしてたのかさ、後輩ちゃんつかまえて、機械に被せてるカバーが折れ目通りにたたまれてないって、どうでも良い事をネチネチネチネチ」
「うわ、マジどうでも良い。後輩ちゃん可哀想」
「表面的には謝ってたけど、後でトイレで会った時にウルセェってキレてたから、慰めといた」
「そっか。彼女マイルール多い上に押しつけてくるから面倒くさいよね」
「ホントホント。自分の思い通りにしようという圧がすごい」
「イライラを人にぶつけるしさー、自分はスッキリするかもだけどさ、やられた方はたまったもんじゃないよね。空気悪くなるからマジやめて欲しいんだけど」
「姫婆、怒ってる時のオーラマジ怖いからねぇ。他人に怒ってても隣で聞いてて背筋凍るもんな」
「パワハラでクビにならないんかね」
「下っ端だとパワハラにならないんじゃね?」
「今は逆パワハラってあるらしいよ」
そんな彼女の相手を、同僚であるが故に背負わされている私である。
本人からの攻撃はのらりくらりと躱し、周囲からの文句はこうして愚痴として発散しながら、そこそこ悪くない雰囲気作りができている。
愚痴を吐き出してスッキリできたところで帰ろうと、ロッカー室の扉を開けたとたん、姫婆とばったりかち合った。
姫婆はとても怖い顔をしている。
おそらく聞かれていた。
「忘れ物」
彼女は怒りのオーラを発しながら、それだけ言うと、すれ違いにロッカー室へ入って行った。
空気が凍る。

明日から、職場の厳冬期突入は間違いない。

冬へ。

11/17/2025, 12:27:21 PM