いぐあな

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300字小説

邪気祓い

『あの……』
 真夜中、枕元で消え入りそうな女性の声が聞こえる。
『……ゆず湯、ありがとうございました』
 最近、肩が異様に重いので、今夜は血行を良くしようと、入浴剤だけどゆず湯に入った。うっすらと目を開けると黒い影がベッドの脇に佇んでいる。
『……おかげでサッパリして、あちらにいけるようになりました。ありがとうございました』
 影が深々とお辞儀をして窓の向こうに去っていく。
「えっ!?」
 飛び起きると部屋には微かにゆずの香りが漂っていた。

 そういえば昨日は冬至。ゆず湯には邪気を祓うという説があるらしい。
「……ということは、あの肩の重みは……」
 そこから先は考えないことにして、私は朝食のコーヒーをグッと飲み干した。

お題「ゆずの香り」

12/22/2023, 11:59:07 AM