もうすぐ半年。
彼女が此処へ来てから、殿の御前はもとより我々下々のむさ苦しい酒盛りにも大輪の花が咲く様になった。
今夜も、歌に舞はいかがと姿を表した彼女に部下たちは手を叩いて大喜び。日頃の労を労う席なのだから、今日ばかりは好きに盛り上がるといいさ。節度は持ってね。
彼女の歌は、ほとんどが聞いたことのないものばかり。
巡る星と陽、喜び、痛みや悼み、童の戯れ、そして恋。彼女の声で様々な詩を聞いた。詩に混ぜられた異国の言葉も、幾らか覚えた。時々ズキリと胸を刺すのに、聞き逃すまいとしてしまう。
『おお、いっちょやるか!』
部下の一人が立ち上がり、木札か何かを拍子木代わりに打ち鳴らし始めた。別の年若い部下が何人か、無理な裏声を出して歌に沿い始める。呵呵と笑いが起こり、彼らと彼女は親指を立てて合図を交わした。
……ふーーーん?
お前たちは、この歌を知っているんだね。
とやかく言う理由はないが、なんとなく彼らの名前を記憶に留めた。美しい歌声を騒音で遮ってくれちゃって、彼女が笑っていなければ減給したよ。
人の営みを、咲いては散り種を落とす花に例えて。
人生は無駄ではないと、光る奇跡だと彼女は歌う。
そんな風に、声を枯らして。
影に生きる私たちを、そんな詩で笑わせ、踊らせ、自分の事だなんて錯覚させて。……来世にまで、期待なんかさせて。
まったく、罪な女とは君のことだよ。
もうすぐ半年。
殿からは『構わん、好きにせよ』とお言葉を賜った事だし、それまでには何としてもものにするよ、君を。
【声が枯れるまで】
10/21/2023, 4:25:23 PM