美夜

Open App

 『冬休み』


 短い年末年始。
 束の間のお休みに、同じ職場のあの人には会えない。
 毎日、彼の顔を見るのが私のとっておきの楽しみなのに。
 「はぁ。」
 声に出して小さく溜め息をついて、作業を終えた机を片付ける。

 ふと、声を掛けられた。
 「お疲れ様。」
 振り向くと、その彼が傍に立ち、ちょっとそわそわしたように周りをキョロキョロしている。
 「お疲れ様です!もうあがりますか?」
 「あぁ、うん。その……今年もお世話になりました。」
 彼が軽く頭を下げる。
 「あぁ、はい。お世話になりました!」
 私もぺこっとお辞儀をする。
 「来年もよろしくお願いします。」
 「はい、こちらこそ、よろしくお願い致します。」
 軽く会釈をし、笑顔を向ける。すると彼は、私の顔をじっと見つめて、それからスッと視線を逸らした。
 「あの、この後なんだけど……」
 「はい?」
 私が首を傾げると、彼はまたそわそわしたように視線を泳がす。
 「時間ある?」
 「え、と?」
 きょとんと聞き返す私に、ぎこちなく笑顔を作って見せた。
 「忘年会、しない?……二人で。」
 語尾が小声で聞き逃しそうになって、私は大袈裟に聞き返してしまう。
 「えぇ!?」
 彼はちょっと染めた頬を逸らして、コホンとひとつ咳払いをする。
 「……休み中、会えないからさ。」
 「……」
 同じく頬を染めた私の顔に目を止めて、彼が下を向いて微笑んだ。
 「いいかな。」
 「……はい。」

 そのまま、連れ立って歩くだけで、私はもう酔っ払ったようにふわふわした気分で。
 「年始、初詣行かない?」

 まだ直接好きと言われたわけじゃない。
 でも。
 私の冬休みが、休みではなくなってしまった。


12/28/2022, 11:16:38 AM