「あ、流れ星!」
夜空を見ながら女の子が声を張り上げた。
「わあ、すごいね。見えたね! ミーちゃんこれからたくさん見えるからね。たくさんお願い事しようね!」
一緒に夜空を見ていた母親が言った。
「うん!」
少しすると、深い闇の中をたくさんの光が横切っていった。
星空会議。
「どうだ? 来てるか?」
「お、お、すごいすごい! たくさん来てますよ!」
「よしよし! いいぞ、その調子だ! どんどん星に願ってくれ! ペルセウス座流星群が地球に接近してる今夜が書き入れ時だぞ! はやく願い事まとめて持ってこい!」
デネブが星たちに指令を飛ばす。星空会議のメンバーたちは各地から送られてくる願い事をピックアップしてまとめはじめた。
「地球のやつら、最近はめっきり夜空を見る習慣がなくなってるからな。街が明るすぎて星が見えないなんてやつもいる。オレたち星間同盟(スターユニオンズ)の影響力は年々弱まるばかりだ」
デネブの講釈が始まった。毎度のことでみんな聞き飽きている。
「だからこそ、流星群みたいな天文イベントの時がチャンスなんだ! たくさんの人間が我々に願い事をするから、それを片っ端から叶えて、オレたちのパワーを知らしめるんだ!」
デネブは拳を突き上げた。しかし周囲の星は自分の仕事に必死になっていて、誰も後に続かない。
「大昔からやってる仕事を、そんなに声高に宣言されてもねぇ」
「デネブさん、ここ数年飲みにいく度に言ってますからね。最近は力が弱まって不景気だとか、オレの若い頃はもっと輝いてたとか、情けないですよ」
サドルとアルビレオはデネブに聞こえないようにコソコソ話している。
「デネブ司令! TOKYO地区の願い事をまとめました」
はくちょう座の星たちがまとめた資料をデネブに献上した。
「よしいいぞ! なになに? 新車を買えますように、結婚できますように、給料が上がりますように……。どれも俗っぽくて最高だな! 実に人間らしい」
デネブの興奮をよそに、部下たちはまた陰口を叩く。
「昔なら丸めて捨ててたような願い事なのに、あんなに喜んでる」
「願い事ならなんでもいいのかね」
「よし! この者たちの素性調査だ。日頃の行いから願い事を叶えるか判断するぞ! サン(太陽)のビッグデータにつなげ!」
サンは地球に最も近い位置で人間を監視する役目を負っている。地球を明るく照らす光は犯罪の抑止力にもなっているのだが……。
「実は、最近はサンの影響力も弱まっていて……」
「なんだって?」
「太陽が昇っている間にも、白昼堂々犯罪を起こす輩も増えているようなんです」
「お天道さまも形無しだな。でもビッグデータは取れるだろう?」
「それが、ここ数年は、人間の犯罪にイライラした太陽が灼けつくような視線を送っているようで、あまりの暑さに、人々が日傘をして歩くようになったんです」
「なに? それじゃあ!」
「はい、サンの監視が行き届かなくなってしまいました」
「そんな北風と太陽のバッドエンドみたいな話があるか! もういい、だったらムーン(月)はどうだ? サンのバックアップは月がしてるんだろう?」
「はい。月は太陽の光を和らげて運んでいるので、人間たちとはおおむね良好な関係を築いています。ですが……」
「まだ何か問題があるのか?」
「今日は新月でして……」
「月まで太陽から目を背けちゃった!」
2/11/2025, 12:54:03 AM