空蝉

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よく夢を見た。あの頃の夢。
夢の中であの子はいつだって僕より少し前にいる。
信号は点滅してて、あの子は言う。
「あ、信号ぽかぽかしてる。」
チカチカじゃないのか、
と僕が言う前にあの子は走り出す。

ある時は、別れ際のシーン。
少し大きくなった僕が同じように、
少し大きくなったあの子に手を振っている。
あの子はすぐに「じゃあね。」って離れていく。
その背中を僕は暫く眺める。
離れていくあの子をぼんやりと見つめながら
僕はどうしてか痛む胸を押さえる。
夢の中なのに喉を通り抜ける風がひやりと冷たくて
僕は泣きそうになる。そんな夢。

ある朝ついに、起きても尚消えない
この胸の痛みの正体が寂しさなのだと僕は気づいた。
僕はあの頃寂しかったんだと、ようやく気づいた。
それから、あの子の夢を見ることはなくなった。
だけど、あの子の夢の断片を思い出す度、
微かに過ぎる鈍い痛みは
今でも僕をほんの少しだけ悲しくさせる。

11/21/2025, 7:28:26 PM