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「今度は泣かないでと来たか。人間は、勝手だねぇ」
 声がしたので振り向くとそこにはホトトギスがいた。

 その物憂げな雰囲気に思わず声をかける。
「何かあったのか?」
 我ながら馬鹿な質問をしたと思う。
 鳥が喋るはずなんて無いのに。
 だが、その鳥は事もなげに返事をする。
「ああ、聞いてくれるか。昔な、人間が来て、泣かないなら殺すって、言われたことあるんだ」
「それは大変だな」
 流暢に話すホトトギスを見て、これは夢だと気づく

「その後には、泣かせてみせようって、逆さ吊りにさせられて、無理矢理泣かされたことがある」
「それはまた災難であったな」
「その後のやつも変なやつだったよ。泣かないならって泣くまで待つって言うんだ」
「ほう」
「で、何もせずじーっと見てるだけなの。俺、いたたまれなくって、泣く振りしたんだ」
 ホトトギスの言葉に思わず吹き出す。
 夢とはいえ、話のうまいホトトギスだ。

「それで、今回は泣くなって言われたのか?」
「そうなんだよ。人間って勝手だよな」
「そうか。でもお前は泣いているようには見えないな。泣くなとはどういう意味だ」
「いや、あんたが泣くなよって意味だよ」
「何言ってるんだ。意味分からん」
「そりゃそうだ。これは夢だぞ」
「そうだったな。それで、なんで泣くんだ?」
「ああ、これからあんたの大切な人が死ぬんだ」
 大切な人と言われて考えてみるが、思考がまとまらない。
 夢だからだろう。

「いいか、泣くなよ」
「はあ」
 自分を呼んでいる声が聞こえる。
 自分の意識が浮上してきて、目が覚めるのを自覚する。
「忘れるな。泣くなよ。己の為すべきことを為すために…」



――――――――


「起きてください。殿」
「どうした。仮眠中だぞ」
「緊急の連絡です。これを」
 部下から渡された文を寝ぼけた頭で読むが、その衝撃的な内容に一気に頭が冴える。
「ば、馬鹿な。信長様が…」

 信長様と過ごした日々を思い出し、涙が零れそうにになる。
―泣くなよ
 その言葉が頭を過ぎる。
 そうだ泣いてはいけない。
 自分には、やるべきことがあるのだ

「官兵衛を呼べ。相談がしたい」
「はっ」
 走っていく伝令を見ながら、これからのことを考える。
―泣くなよ
 あれは信長様だったのかもしれない
 頬を叩き、自分に活を入れる
 泣いてはいけない
 為すために為すために。

 為したあとに泣けばいいのだ。

12/1/2023, 9:29:39 AM