「ねえねえ、夜に凪いだ湖の上を走れたらまるで夜空を駆けてるみたいでロマンチックじゃない?」
部室で本を読んでいると超唐突に先輩からそんなことを言われ私は目をパチクリさせる。
先輩はちょっと天然でマイペースで結構突拍子もないことを言いがちだ。だけどまさか本を読んでいる時に声をかけてくるとは思わなかった。
とりあえず読んでたところを指で挟んで先輩の方を向く。
「はあ……いきなりなんですか?」
「さっき歩いてる時に思いついたの! 夜空を駆けるなんてどうやってもできないから、それならできるんじゃないかって!」
「……湖の上をどうやって走るんですか。凍らせるんですか。それとも忍者みたく水蜘蛛を使うんですか。
あれ走れないですけど」
「うーん……現実的に無理かぁ。じゃあ夜の水たまりでいいや。
……いや、夜のウユニ塩湖っていう手も……」
ぶつぶつ言い始めた先輩を尻目に私は読書を再開する。
変人に片足突っ込んでる先輩だけど、私はこの人のことなんだかんだで好きだし尊敬してるのよね。
だって、二人しかいない文芸部をどうにかして存続させた人だもの。
2/21/2025, 2:19:55 PM