小絲さなこ

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「あこがれのひと」


「雨音って、好きなの」
彼女はそう言って髪をかきあげた。
その言葉も、その仕草も、見るだけで蕩けてしまいそうで──



降水確率は二十パーセント。
朝も晴れていたし、まさか雨が降るなんて思わないだろう。
気象アプリで雨雲レーダーをチェックすると、やはり通り雨のようだ。


昇降口にひとり。
大粒の雨を降らせる雨雲を睨みつける。

「バス、一本見送るしかないか」


図書室へ向かおうとしたそのとき、視界の端に彼女を捉えた。
「……あ、」
声をかけようとしたが、出来ない。
彼女の隣に立つ男子生徒の距離が妙に近いからだ。
そのまま二人を見ていると、男子生徒は鞄から折り畳み傘を出し、彼女に差し出した。

そうだよね……

あんなに素敵な人、モテないわけがない。
それこそ男なんて選びたい放題では?


胸の奥に広がるこの不快感にも似たものを、認めたくなくて、彼女たちに背を向けた。
そのまま、速度を上げて廊下を進む。


ただの憧れではないのかもしれない。
友情ではないのかもしれない。
だけど、恋ではない──ないはずなのに。

私が、彼女に向けているこの気持ちは、何?



いつの間にか、立ち止まっていた。
渡り廊下の両脇は土砂降り。



────雨に佇む

8/27/2024, 2:41:24 PM