薄氷に手を添えて、浅い水たまりの中を覗く。
私の体温で溶けていく氷と、冷たい水の塊に温度を奪われていく指先。じわじわと手の形に溶けていって、静かに水底に沈むのをじっとみていた。
もう誰も、私の行動を諌めてくれる人はみんな、いなくなってしまった。
一緒にいると煩わしいのに、いなくても心をぐちゃぐちゃにかき乱して煩わせるなんて。勝手な人たちだ。
じんじんと痛む手を水底から引き抜く。たった1分も経たない間にすっかり冷えきって感覚が鈍っている。
ゆっくりと握ったり開いたりして動きを確かめ、今度は少し力をいれて握り込む。
――かしゃん
薄っぺらな氷が小さな音を立てて割れ、浅く溜まった水が飛び散る。まだ完全には明けきらない冬の朝日を反射してきらきらと光るのはきれいだ。その後は地面に落ちて吸い込まれていく儚い宝石のようだった。
こんな私にも朝がくるのだろうか。
一生、明けてほしくない夜があってもいいじゃないか。
思い出になって風化していくなんて許せない。
「…寂しい」
【題:冬のはじまり】
11/29/2024, 11:02:01 AM