#21 真夜中
田んぼと畑は多いけど、交通もそれなりにある。
だけど遊ぶ所は無い。そんな中途半端な田舎で。
誰もが寝静まった真夜中に、少女が一人。
鍵の回す音が響かないように。
息さえ殺しながら慎重に。
そうっと家から抜け出してきたのだった。
歩きでは遠くに行けないから、自転車で。
隣の街に繋がる大きめの道路を、
彼女は衝動に任せて、がむしゃらに漕いでいった。
眠れなかったから
ふざけるな
風を感じたかったから
嫌だ嫌だ嫌だ
夜の道を見てみたかったから
シミュレーションじみた言い訳と、
意味のない罵倒の言葉が、
彼女の頭の中で浮かんでは消える。
高架へと続くゆるい坂を登り、それなりに景色が見渡せるようになったところで、彼女は止まった。
歩道には彼女しかいない。
車は秩序に従って通り過ぎていく。
隣の街は、まだ遠い。
彼女は街境の暗闇をしばらくの間見ながら、
泣きたくなるような気持ちと、孤独と、自由を味わった。
時間にして30分にも満たない、真夜中の散歩。
母の病と父の仕事によって平穏から遠ざかった家庭を
本当には受け入れらないくせに、
学校生活が何も変わらないから
拒否することもできない。
そんな、大人にはなれないが、
子供でもいられない少女にとって、
これが精一杯の反抗期だった。
5/17/2023, 3:04:26 PM