「もし明日世界が終わっちゃうとしたら、そのときに何をしていたい?」
「なんだそりゃ」
「えっと……読んだ小説で。そういうのがあって」
タラレバにしたって、こんなポカポカ陽気のなかでする話か?
まあ話題がなんであれ、目の前のクッキーもコーラも芝生の匂いも、美味いことには変わんねえけど。
「そうだなあ」
空を見上げて直ぐシンプルに浮かんだ願いは、口にするにはあまりにも照れくさいものだった。
俺は暫く考えるフリをしてから、出来るだけ素っ気なく言い放つ。
「美味い肉食いてえ」
「……それだけ?」
「わりーかよ」
「わ、悪くはないけど。ホントにホントに、それだけ?」
何だよ。何で急に拗ねてんだよ。
っていうか、拗ねてても可愛いよなコイツ。
微かに染まった頬とへの字に曲がった唇が柔らかそうで、思わず伸ばしそうになった手をすんでのところで引っ込める。あぶね。
「お嬢こそ何してたいんだよ。世界メツボーとやらの瞬間」
「私? 私は……」
言葉を途切れさせ暫く空を見上げた後、お嬢の綺麗な青灰色の瞳が俺に向かって細められる。
はにかむ愛らしい表情に釘付けになってしまっただけでもヤバいってのに。
「……私は貴方と、手を繋いでいたいな。そうしたら、きっとなんにも怖くないよ」
頭をぶん殴られたみたいに、世界がぐるぐるまわりだす。顔があっちい。
「……。……ふーん。お嬢って、ホント俺のこと好きだよな」
「うん。大好きよ」
「まあ別に、知ってるし。何百回も聞かされてっし」
「……尻尾、揺れてるよ?」
「うるせ」
うるせーうるせー。
勝手に動く尻尾を無理やり掴んで押さえつけて、誤魔化すみたいにコーラを一気飲みした。
──俺だって同じだって。
言えたらどんなに良いか。
6/7/2024, 2:26:26 PM