すべて物語のつもりです

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「失恋した。」
 親友がポロリと涙とともにその言葉を零した。
「知ってる。」
 そう返すと、わたし達の間には沈黙が生まれて、しばらくすると親友が泣き始める。大きな泣き声を上げて泣くわけじゃなくて、盛大な身振りをつけて泣くわけでもなくて、なんとか泣き声を堪えようと震えた息を吐き出すのが、彼女らしかった。
 蝉が淡い白のカーテンで覆われた窓の外で鳴いていた。
 もうすぐ夏が来る。
 親友は今年こそ彼氏のいる夏を送りたいと、昨年のクリスマスを過ぎた辺りから早々に言っていた。
 わたしは、彼氏がいようがいまいがどちらでもよかった。失恋するたびに相手を想って涙を流す親友と変わらず、どちらかの自室で怠けることができるのなら。
「ねえ、髪切りに行こうよ。」
 彼女の小さな息遣いが、彼女のシンプルな部屋に響く。相変わらず淡いものが好きらしい。どんな相手に恋をしても、芯は貫いたまま変わらない彼女が大好きだ。
 わたしの茶色の髪と、彼女の黒い髪を見比べながら言った。
 親友は視線だけをわたしにやって頷いた。
「どうせなら、思いっきり切っちゃおう。今年も夏は暑いだろうし。」
 ああ、夏が来る。
 カーテンを通り抜けて、わたし達に太陽の光が届く。

6/3/2023, 1:33:03 PM