烏羽美空朗

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眠りの水面下から浮上する直前まで、俺はいつも記憶を失っている。
自分は誰か。何処にいるのか。昨日は何をしていたのだろうか。今日は何をすべきか……など、自分に対する総てを一切忘れているのだ。
そうして一晩中、何も考えないでただ揺蕩っていた俺の襟元に、そろそろ起きる時間だ。と、現実への釣り針はこれまた巧みに引っ掛けられ、否応なしにぐんぐんと引き上げていく。その時のぎゅうぅんとする感覚の中に、何とも言えぬ気持ち良さがあるのだ。

瞼を開く。木目の天井がそこにある。何も考えないでそれを見つめていると、次第に預けていた記憶が上から降りてくる。

三秒かけて総てを思い出し、少し肌寒い感覚に躊躇いながらも身体を起こす。俺を離して冷えていく掛け布団のシワを伸ばし、差し込む朝日に目を細めた。

さて、無事に今日が始まったようだ。

始まりはいつも

10/20/2022, 2:24:48 PM