シシー

Open App

 自分の存在価値を証明したかった

 いつも誰かと比べて、いい子であり、劣っている子だった。テストの点数も、賞をとるのも、運動神経、服のセンス、容姿、性格。私という存在を形作るものは全て、誰かと比べられること、でようやく認識される。

 特に妹と比べられることが多かった。
一つ年下の妹は私とは正反対の明るく素直な性格をした可愛い女の子だった。よく回る口と頭で大人を翻弄し、周りを味方につけて、注目されることを恐れず自由に振る舞った。当然、私はいつも2番目の扱いをされた。

 思春期になると、妹は荒れた。非行に走ることはなくてただ反抗的なだけのかわいらしいものだ。だけど大人には都合が悪かったらしい。
思春期もなく反抗もしない大人しい私にスポットライトが当てられた。ようやく私の番がきた、嬉しい。短い主人公生活にすっかり心酔してしまった。

 

 もう全部昔の話。終わったことだ、何もかも終わった。
ずっと憎くてたまらなかった。比べることでしか私という人間を存在させてくれない大人が憎くて憎くてたまらない。
 妹が子供を産んだ、かわいらしい小さな姪っ子。写真の中で幸せそうに笑っているのに、今はもうどこにもいない。こんなに小さな子から母親を奪い、それを残念がるクソッタレ共がなぜのうのうと生きている。

 キラキラと光る水面に、月は映らない

 身体中が痛い。鉄の味と臭いが濃くて嫌になる。頭が働かない。わんわんと泣く子供の声が聴こえる。
 こんなの、トラウマものでしょ。

「…約束、果たせなくてごめん」

 ぞろぞろとクソッタレ共が部屋を出ていく。子供の声が遠ざかって、残念だけど、それが正解だ。
 痛くて怠い身体を起こして、隠していたロープを取り出す。いたずら好きの子供が入ってこられないよう、しっかりとドアノブに固定して準備は終わり。
 最初から最後まで映しているだろうレンズの向こうに手を振ってみる。なんだか気恥ずかしくてすぐやめた。

「生まれなきゃよかったね、私も、あんたも」

 写真の中では相変わらず幸せそうに笑ってさ、本当にそういうとこすごいよ。昔からずっと私の憧れだった。

 自分の存在価値を証明し続けた妹も、
 なんの価値も示すことなく道具になった私も、
 みんな、みんな、始めから存在しなかった

 人が狂うのは簡単だ
 夢と現実を交互に与えるだけ
 それだけで私たちは消える

「クソッタレの、人殺しめ」




――姪っ子がこの動画を、見つけませんように




             【題:子供の頃の夢】

6/23/2025, 2:17:41 PM