甘々にすっ転べ

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初めて行った結婚相談だったのに、何故か今は手を引かれ真向かいのファミレスへ。

「あの...」

「さっきのご要望もう一度聞かせてください」

それなら。

「母に勧められて」

「お相手に対して何か希望は?」

「特には。優しい人が良いです。」

「失礼ですけど、お幾つですか。」

「21です。母も同じ歳で結婚したのに、私はまだでお恥ずかしい。」


さっきも同じ話をしたのに。
どうしてまた同じ事を聞くの。

「じゃあ。聞くけど。」

そしておねぇさんの態度が変わる。


「デザート何食べたいですか?」

ガサっとメニュー表を開いて、どれでも良いですよと言う。

「じゃあ、これで。」

選んだのはショートケーキ。

「何でこれですか。チョコは嫌い?」

嫌いじゃないけど、ショートケーキを選んだ理由は沢山ある。


「言ってみてください。」

「な、にをですか」

「チョコレートケーキが嫌いな理由。」

「…嫌いじゃ無いです」

「じゃあ好き?」

「好きじゃありません。」

「好きなの有りません?抹茶のアイスとか有りますよ?」

「え。」

「ん?」

「ケーキの話じゃないんですか」

何か間違いでも犯したのかと慌てると、おねぇさんがニィと唇を上げて笑った

「デザートの話ですよ。」

そこからおねえさんの質問責めが始まった。

アイスはあまり食べない?
ーはい。
ケーキはホール?ピース?
ー多分、両方
自分で選んだ事ある?
ーあ、ありますっ。
選択肢何個有りました?
ー二択ですけど。
ホールとピースが有るのにたった二択?
ー私が選ぶ時は大抵、でも家族はちゃんと選んでますよっ。

「じゃあ、今は?」

おねぇさんがデザートのページを人差し指で、ぐるっと囲う。

「私とあなただけ。デザートの候補はアイス、わらび餅、ケーキ、パンケーキ、プリン、パフェ…どれにします?お腹空いたぁ。」

「ーーパフェ、にします。」

「どれにします?」

「苺の、こっちが良いです。」

「これは?こっちも苺ですよ?」

「…ヨーグルト苦手で、」

「でもそのパフェ小さいですよ。」


おねえさんがやけに食い下がる。
小さくても良い。

「だって、可愛いじゃないですか。」


そうして私はパフェ、おねえさんはパンケーキをお願いして待つ。

「聞いても良いですかね、最初のケーキの件ですけど。」

何だろう、と思いつつ頷いた。

「何故、ショートケーキを選んだんですか。」

理由ならいっぱい有る。
でも、言えるわけが無い。

「書きます?」

おねえさんが鞄からコピー用紙を取り出した。
そんな物、普通持ち歩きますか。
私も、持った方が良いのかな、


「ああ、私何でも紙に書かないと気が済まない性質なので、気にしないで良いですよ。紙の一枚二枚。資源になるだけですから。」

「はぁ、」

私はおねえさんに促されて、ショートケーキを選んだ理由を書き始めた。
書けば11個もあった。

そして、そのどれもが"私の事"じゃなかった。

「お姉さん働いてますよね。」

「はい。」

「自分へのご褒美にアイス買った事ない?」

「有りますよそのくらい。」

「それって、お家で食べられる?」


私は、いいえと答えた。

「じゃあ、聞きますけど。」

「はい。」

「お姉さん、結婚したい?」

「…し、」


お待たせ致しましたぁー、とお願いしたデザートが届く。
美味しそうっ、とはしゃぐおねぇさんを前に私は動けないでいた。

「パフェ食べないんですか?」

「わ、たしに食べる権利はあるんでしょうか、」

「お姉さんが食べたくて選んだ可愛いパフェですよ?」

私はテーブルで二つに畳まれた紙を見る。


「ね、お姉さん。」

「はい?」

「あんたのママはあんたが美味しそうにパフェを食おうがあんたへの態度は変わらない。こんな仕事してるとよく聞く話ですけど、あんたのママは、あんたがショートケーキ大好きだって信じきってるよ。でしょ?」


それは、そうですけど。

「パフェ要らないですか?欲しく無いなら私食べますよ。そんな小さいの余裕で入りますっ。」


私は、スプーンを手に取った。
おかしいな、強張ってる。
そしてひとくち、ほんのちょっとだけ...そう言い聞かせて食べた生クリーム。

「美味し?」

「…おいしぃ、っ」

「もう一個頼みます?」

私は首を振って断った。

「もう少し食べてから考えます。」


あっという間に食べ終わった小さいパフェ。
こんなものに、私は一体何を見てたんだろ。

これはパフェで。
生クリームで、バニラアイスで、コーンフレークで、苺と苺シロップの只のパフェでしかない。


食べ物に罪は無い、って本当なんだ。


「あの、」

「はい。何のご用でしょうか?」

「私。やっぱり結婚したいです。」

「御相手へのご要望は?」

「私、の…好きな物を覚えてくれるひと、が良いです。でも、そんな人居ますかね、」

「さぁ。それは今から探しましょう。それより、次のデザート何頼みます?今度こそ好きなケーキ食べましょうよっ。」


私は、たった1回だけ食べたチーズケーキを選んだ。


「美味しぃ、」


ーーーーー

「毎年、誕生日のケーキがファミレスのデザートなんて安上がりだなぁ全く。」

「良いんですっ。」

「パフェと、チーズケーキね。はいはい。」

「もうっ、ちゃんと理由が有るんですよっ。」

「知ってますーっ。その話、何万回も聞きました。俺を妬かせて楽しいですか。」

「へへっ。楽しいですっ。」

あの時のとは全然違う苺パフェになったけど、今食べてる苺パフェもチーズケーキも美味しいですっ。

「保育園のお迎えが二人だって知ったらあいつら跳ねて喜ぶな。」

「…子供の全力の突進を受け止めるのも、母親の役目つ、」

「いやいや、無理すんな。そこは俺の役目、俺がやるっ。」

「私と体重変わらないのに、」

「筋力違うからっ。」

「ジャムの蓋、開けられなかった」

「それは、俺も情けないと思ってるけどっ、あのジャムも悪い。」

「ジャムは悪く無いですっ。」


だって、食べ物に罪は無いじゃないですかっ。



11/20/2024, 8:51:33 PM