「――21グラム」
一緒に酒飲んでたら、ダチが急に変なこと言い出した。
まだビール一缶も空けてないのに、もう酔ったのか。
「21グラムらしいぞ小僧」
「なにがだよジジイ」
こいつは呑んだくれのホームレス。
俺は適当にその日必要な分だけ稼いでるフリーター。
気ままに毎日生きてる感じが、妙にウマが合った。
「魂の重さだと。死んだら21グラム抜けるんだと」
ダチは遠い目をして、少し身震いしていた。
どこか悪いのかとは聞けなかった。聞きたくなかった。
ばぁか、と俺はダチの肩を軽く小突く。
「体重ごとき、抜けた分は俺が酒でも注いでやるよ」
そう言ってドヤ顔で酒をあおる俺に、馬鹿はお前じゃとダチが俺の頭をぶん殴った。痛がる俺を見て、缶ビールを零しながらゲラゲラ笑うダチ。
なんだよ、元気じゃねえか。
安心どころか、なんなら腹立たしいまである。
その日の晩は、朝日が昇るまで飲み明かした。
――それから数日後、仕事終わりにふらりと立ち寄ると、ダチのダンボールハウスが畳まれていた。
役人に撤去されたのか、酒の空き缶もプラの弁当容器も汚い毛布も、全て綺麗さっぱり無くなっている。
ふと、崩れたレンガの隙間に茶封筒がねじ込まれているのを見つけた。引っ越したのか。そうに決まっている。
そうだ、この間も役人と揉めたってボヤいてたし、ちょっと別の場所に住処を変えただけだ――
『おれの21グラム』
レシートの裏に、太字のペンで書かれていた。
封筒の中には、21枚の万札。
すぐに、魂の話だと思った。
死んだのか。本当に、死んだのか。
俺は馬鹿だから、抜けた魂の戻し方を知らない。
そもそも体が無いのなら、どうしようもない。
哀しみ、後悔。他の感情は、表し方がわからないけど。――それらはすべて、眠れないほどに。
【眠れないほど】2024/12/05
12/5/2024, 11:31:48 PM