ぜとぬ

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「吐き出さないのね」
誰かがそっと囁いた。
「貴方はいつもそうよね、我慢している」
そんなの、どうだっていいでしょ。
自分の勝手だろ。
「そして貴方は、音に逃げるのね」
そう囁かれて、ハッとなる。
手元を見ると、自分の手は鍵盤のファに触れていた。
「真夜中の音は、騒音でしかないわよ?」
「……そんなの、」
俺は自然と口に出していた。
「俺の勝手じゃないか。騒音でもいいんだ。俺は、俺が奏でる音で誰かを癒したいんだ。何も知らないお前が言うな」
心に出た言葉をぽろぽろと吐き出した。
いつの間にか声は聞こえなくなっていたが、俺は最後にはっきり聞こえた。
──まだ、現実から逃げるのね。
──真夜中に逃亡していくのね。
と。

5/17/2021, 11:05:53 AM