S.Arendt

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空の上を箒で飛ぶ

友人である人間の王を乗せて、彼は上機嫌だった
王は目の前にいる御伽話に出てきた人物と慣れない光景に
好奇心だったり、少し怯えながらも景色を楽しんでいた

“どうだい?君は空からの景色を見る機会は少ないだろう?”

楽しめているといいけれど、と彼は言う

「すごく楽しいよ、世界が広く…小さなものに見えてく
 る。風も気持ちが良いし、最高だ!ありがとう、アーレン
 ト。」

“そりゃあよかった!公務中の君を掻っ攫ってきたから怒ら
 れるかと思ったよ〜。”

けらけらと笑いながら鳥と並走する速度に箒を操ってる彼に
御伽話の厳格に見えた彼とのギャップや、御伽話通りに細やかな魔法の使い方を目の前にして…王の中にあった高所の恐怖なんてものは吹き飛んでいた

自国を空から見下ろし、この場所を護っているのだと誇りに思う気持ちが強まる
より一層、民が生きやすい国にしたいとも思った

そんな想いを胸に、太陽の方を見やる
眩しさに片手で影をつくっていたらぐらり、と身体が傾いた

「!?〜〜〜!まず、い」

箒からずるりと落ちてしまった

頭から真っ逆さまに落ちていき、焦りが強くなる王
その横を同じく落ちているアーレント

「な゛、アーレント!?なにして、、」

冷たい風に喉が詰まる
げほ、と咳をしていたら彼が口を開いた

“なぁ〜に、こんなスリルもまた一興!楽しもうよ、ほら!”

何を馬鹿げた事を言っているんだコイツ!!
憧れとか置いておいて、目の前の人が放ったイカれた発言に
驚きが勝る

「はぁああああああ゛!?無理、しぬ無理だぞ流石に!!」

これには王もブチギレである

ほぅら、こっちにおいでよ

手を引っ張りアーレントの身体で王をキャッチする
共に落下している時に見えた景色は

あまりにも綺麗だった
上下が逆さまになった景色
光が足元に見え、大地が空のように見える
木々が揺らめく様も、歩けてしまいそうな夕暮れも
何もかもが美しかった

だが、木々が寸前に見え避けられそうもない状態に死を覚悟する

“大丈夫、ほらごらん?僕がいればなんともないよ”

ぎゅっと目を瞑り身体に力を入れていた王にアーレントが優しく話しかける

恐る恐る目をひらけば、ふわふわと身体が浮いていた

「は、あ……こんなことなら先に言ってくれよ…………」

そうだった、彼は魔法を使える
失念していた

“でも、楽しかったろう?
 君の目は輝いていたよ。”

ふふん、と笑っている彼を見て安堵や呆れでどっと力が抜ける

“おやおや、疲れてしまったかな?
 王宮に送り届けるからゆっくり休んでいるといい。
 また一緒に空を飛ぼう、僕の友人♪”

こんな人と友人になれた嬉しさだとか、見せてもらった国を一望できる景色
この数日、王はひっきりなしに感情が動いていた

「ああ、ありがとう…今度はお茶会でもしよう。
 庭園を案内するよ…」

疲れにより眠気が出てきた中で、おぼろげに約束をする
顔を覗き込んだ彼は嬉しそうに笑みを浮かべていた。

“人間がこうやって誘ってくれるのは嬉しいことだね。
 さて、帰りは安全に運んであげようね…”

ゆらり
身体を浮かせて飛び立っていく龍は人間をのせていた

11/13/2024, 7:14:44 AM