名無しの夜

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子供の頃


受け止めきれない哀しみに

視界は色を失った

すべてがモノクロームに


古い再生機のように

カクカクとコマ送りされる情景は

音も、遠くでくもぐっているように


世界から取り残されてる

そんな感覚が

消え去ってしまいたい心情を加速化させた


何も、誰も、いらなかった



母親の付き合いで通った、喫茶店

アンティークなサンルームめいた店内には

深いコーヒーの匂いが漂っていた


ふと、耳に届いたピアノの旋律


柔らかくて

湖面に散らばる陽光のような

繊細で美しい旋律


何故だか、その音だけは

はっきりと耳に、正確に届いて


ああ、綺麗だ


そう感じてしまった時に

視界はゆるりと、色を取り戻していった



……でも、だけど

色のない

世界から切り離されかけた

私だけの場所から

抜け出したかった訳じゃ、なかったの


あのまま、浸りきってしまえていたなら


今、あの場所に還れたなら



ふと思いつつ


それでも

ひとりではない日常のために


たゆたう無色の世界を心に沈める

4/18/2024, 9:37:14 PM