涼夏

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 ひらひらと舞う赤いもみじに、幼い頃の息子の面影を見た。真っ赤なほっぺを黄色いマフラーで覆い、ふくふくとした、もみじのような手でありったけのどんぐりを集めていたあの子。都会に働きに出たあの子は、元気にしているだろうか。
『こっちはすっかり葉っぱが色づくようになりました。もし時間ができたら、ご飯食べに帰ってきてくださいね』
 なれない手つきでスマートフォンを操作し、鞄にしまい直す。返事は来るだろうか。
 近くのベンチに腰を下ろす。あの子が小さかった時に比べれば、多くの建物が入れ替わっていて、中には潰れて寂れてしまっている場所もある。それでも、この並木道が美しいことに変わりはない。ぼうっと眺めていると、カバンがブルブル震えた。
『週末帰る』
 素っ気ない文言。こんな所まで主人に似なくてもいいのに、とくすくす笑う。
 どうせ不健康な生活をしているのだろう。たんと栄養のあるものを食べさせなくては。
 何を振舞おうかと考えながら、足は自然とスーパーを目指していた。

お題:秋

9/26/2024, 11:59:01 AM