【あなたとわたし】
よく似た顔をした双子の兄が、わたしの目の前で困ったように眉を下げている。何をするにも二人一緒で、放任主義の両親のもと二人で身を寄せ合ってきたわたしたちには、これまで境界線というものがなかった。あなたはわたし、わたしはあなた――それで良かったし、これからもそうだと心のどこかで信じ込んでいた。
「良いんじゃない? せっかくなんだから行ってきなよ」
兄の友人が海外で起業する、らしい。最近は学生の身でも起業なんてものが簡単にできるのだから、世の中の変化とは凄いものだ。一緒に来ないかと誘われたのだと、一枚しかない航空券を兄は困惑に満ちた眼差しで見下ろしていた。
「でも……」
「でももヘチマもないでしょ。わたしは行かないから。もうすぐ書画展もあるし」
本当はずっとわかっていた。趣味も交友関係も望む将来像も、わたしと兄とは全く異なる。人として当たり前の差異から目を背けて、わたしたちは同じだと互いに言い聞かせてきただけだった。だからきっと、これは良い機会だ。
「あのね。あなたとわたしは、違う人間なんだよ」
曖昧にぼやけさせていた境界線を、はっきりと引き直す。目を見開いたあなたは、やがて静かに視線を伏せて寂寞とした声で囁いた。
「……うん、そうだったね」
半身を引き裂かれるような。無理矢理に分離されるような。どうしようもない痛みに耐えながら、わたしたちは別の存在になった。
11/7/2023, 9:53:44 PM