渚雅

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なぜだか、どこか、おそろしい。

吸い込まれるような透き通る青が頭上を覆っていると、得体の知れない恐怖に似た、筆舌に尽くし難い寒さを感じることがある。突然自分ひとり見知らぬ空間に放り出されたような、そんな理解できない畏怖の念を抱く。


(混じり気がなさすぎて、嫌いだ)

意図せず視界に入ってしまった淡色のグラデーションの下で、誰にも気づかれないよう 独り言ちる。

それは、鏡をずっと眺めている時にも似た嫌悪感。纏い慣れた仮面の下を、笑顔の裏を覗かれて、澱んだ本性を暴かれ突き付けられているかのような、そんな嬉しくもない幻想が色鮮やかに脳裏で流れてゆく。


(嫌い、大嫌い)

─── 空も、星も、海も、鏡も、宝石も、真っ直ぐな視線も すべて。

必死に繕った人当たりのいい装飾を剥いでしまうから。いつの間に染められ慣れ親しんだ生存戦略が、お綺麗なものではない打算まみれのその場凌ぎだと指摘されているようで。


「綺麗だよね。なんか、落ち着く」
「……綺麗、だね。本当に」

嫌いだ。綺麗なものは、なにもかも。

傷も汚れも光を当ててしまう癖に、醜いものは視界にも入れてはくれないのだから。いつだって届きもしない場所で輝いて、こちら側にはけっして足を踏み入れてもくれやしないのだから。


「残酷なくらい」

いつも、そこにあるのに、すり抜けるばかり。

10/24/2024, 8:31:14 AM