人生ゆたか

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✼✼✼/08/17

その日は、陽射しが強く汗ばむ陽気だった。
この日は、珍しく依頼も無く自分達の仕事も終わらせた執事達は少し手持ち無沙汰をしていた。
ある執事達を除いては…


「暑いし、やる気が出ないよ〜!」

っと、厨房で洗い終わった皿を一枚一枚布巾で
拭いていた1人の執事

『仕方無いっすよ、この陽気だし…』

同じく、皿を洗って濯いでいる執事は開いている窓の方を見て応えていた。
少しでも風が入るようにと、窓を開けていたが
この日は、最悪な事に無風だった。

『…と、言うか玲王さん良いんすか?
自分の仕事サボって…俺の仕事を手伝ってくれるのは
有り難いんすけど…』

彼が来てから、約30分ぐらい俺の仕事を手伝って
くれているのだが…このサボり魔玲王さんに
いつツッコもうか機会を持っていた処だ。
俺は、窓の方から自分の手元へと視線を戻して
聞いてみた。

(あと…フライパンを洗ったら終わりだな…)

そんな事を考えていたが、先程の質問の返答が無い。
不思議に思いながら、右隣に居る彼へと視線を変える

「………。」

おいおい…彼は、無言のまま俺と目を合わせようとせずに厨房へ入る扉の方へ顔を向けているじゃねぇか

『………サボりましたね?』

そう、問いかけたら図星だったらしく
身体をギクッと震わせ、それを隠すように
彼は皿を拭き始めた。

「ナンノコトカナー(棒読み)」

と、ヘラヘラとした笑い声で誤魔化してきやがった。
まあ…毎日の事だからそんな事だろうなと思っていたから驚きもしない。

(ふーん……。)

俺は、視線を一番最後に残していたフライパンに戻し
左手で取手を持ちながら毛糸で編んだタワシで
ガシガシと洗い始め続けてボソリと呟いた。

『……主様に言いつけますからね』

「……えっ!!??」

彼の声は、とても焦っていた。
それは!駄目だよ!って、声も聞こえたが無視をした。
暫く喚いた声を出していたので、
自分の仕事をサボる方が悪いっす!と、喝を入れたら
グッっ……!と、情け無い声を出した。

2人で厨房で騒いでいると、
厨房の扉が静かに開かれた。キィッ…と、少し金具と
扉が軋んだ音が聞こえ、2人は誰が来たんだ?と
顔を見合わせ、口論を止め開かれた扉に注目をする。

*「あの…大きい声が廊下まで聴こえたのだけれど…
喧嘩でもしているの?」

顔を覗かせたのは、この屋敷の主様ジルア様である。
男所帯のこの屋敷の花でもあり執事達の癒やしでもある
……と、陰で執事達が主様の話で花を咲かせているのを彼女は多分知らない。

まあ……そんな事は今は、どうでも良いか。

主様の姿を見た俺等は、
『「喧嘩はしていません!」』と、見事に声がハモった
この人と声がハモったのは癪に障るが
彼女は、キョトンとした表情をしたが
次の瞬間には楽しそうに笑っていた。

*「フフッ…仲良しね」

『ヘヘッ…あっ!それより、何か御用ですか?』

*「えぇ…あのね、みんなのお仕事が終わったら
涼みに近くの湖にでも行こうか?って、ルキナが提案
してくれて、それで…皆に声を掛けて周っているんだけど…2人は終わりそう?」

『マジっすか!俺の仕事は終わるんで
じゃあ…軽食と飲み物を御用意いたします!』

*「ありがとう。玲王は?」

「おっ…」

『ちなみに、玲王さんは終わってないっす
サボってました(ニッコリ)』

玲王さんは、この野郎!って、顔をして俺の方を見たが
2度目の無視をして爽やかな笑顔を向け主様に告げ口をしてやった。フライパンも洗い終わったので、サボったのがバレて動けないでいる玲王さんから布巾を奪い取りフライパンを拭いていた。

(さて…軽食は何にしようかな♪?)

取り敢えず、食器棚から飲み物を入れるポットと人数分のカップを用意していたら、玲王さんの謝罪の声と共に走り去る音が聞こえた。
ふと、扉の方を見ると主様が爽やかな笑顔で走り去って行った玲王さんの背中に向け右手を降っていた。
まるで、行ってらっしゃい!と、檄を飛ばすように
走り去る背が見えなくなるまで手を振っていた主様は
やがて厨房の中へと入って来て、俺に

*「何か手伝う事はあるかしら?」

と、聞いてきた。本来なら主様は執事達の仕事を手伝うことをしないのだが、うちの主様は手伝いたがる方なのだ。彼女曰く、皆の役に立つ事がしたい。と、
願っているのだから、俺達執事達もこの願いを叶えている。

『ありがとうございます!
では…お言葉に甘えて、実は…軽食は何にするか決めて無くて…』

*「うーん……フレンチトースト」

『えっ……?フレンチトーストですか?』

何でフレンチトースト?と、疑問に思っていた。
フレンチトーストは、朝食で食べる事はあるが…
軽食で、フレンチトーストを食べる事は無い。
今の俺の頭上には、?が3個ぐらい付いていそうだ。
どうやら、その考えが顔に出ていたらしくて主様は
俺の顔を見てクスクス笑っていた。

*「フフッ…何でって顔をしている…」

『なっ!?そりゃぁ…しますよ!』

*「フフッ…それはね……」

『そ…それは?』

*「そのうち分かるかもね(ニコッ)」

ジルア様は、愛らしい笑顔を俺に向け答えた。
結局のところは、はぐらかされたままで教えてはくれなかったのだ。


ところが、ついに何の前振りもなく
その謎が解き明かされる日が来たのだ。




【フレンチトーストは、玲王の好物】




この事を知ったのは、湖へ行った数日後の事だった。
俺でも知らない事を主様は知っていた。料理係の俺が知らずに主様が知っているなんて!
正直悔しい思いをしつつ
この日は、ひたすら野菜の皮むきをしていた。
今日も、外は暑くて、窓も開けていたが
風は微風だった。おまけに涼しく無い…

(今日も暑いなーー…)

人参の皮むきに取り掛かろうとしていたら、厨房の扉が勢いよく開かれて、その音に心臓が飛び出てくるかと思うほどの勢いで…
今日も元気な執事が1人飛び込んできた。

「シャーオーちゃん♪お手……」

『サボりっすか?キカさん?』

飛び込んできた執事にも目もくれず
人参の皮むきに取り掛かる俺と

*「……。(ニッコリ)」

厨房の椅子に座り、インゲン豆の筋取りをする主様
主様は、飲み物を貰いに来たのだが、ついでに手伝わせて欲しいと願われたので、お言葉に甘えて手伝ってもらっている。今は、多分だけれど…飛び込んで来た執事と目が合ったらしい。

(……一瞬だけ厨房の中が静かになったな…。)


「……アハッ♪主様だ~♪」

*「……。(ニッコリ)」



……この後の展開は、振り返らなくても分かるから
キカさんの事は……もう無視しよう。
2本目の人参の皮を剥き作業に取り掛かる。

キカさんの後も、玲王さん、ルカ、恋、が厨房へ
サボりにやってきたが主様の姿を見て、皆
一瞬だけ静かになっていた。

(もう…主様、此処にずっと居てくれねぇかな…)
(俺の仕事が捗るし…)

そんな事を考えながら、皮を剥いた人参を
乱切りに切り始めた。

8/17/2025, 1:54:38 PM