もう何通目か数えるのが面倒になってきた何度目かの手紙で、した約束。
慣れてきたと思ってもまだ不安で、エアメールに書いた住所を、何度も何度も確認していたあの時にした約束だった。
文通を始めたのは、お互いに言葉の勉強がしたいからだった。
普通の言葉ではない。
公用語の常用などいろんな理由で話者が絶滅しかかっている、絶滅危惧種の言葉を学びたい。
私とあなたは、そういう意欲のもとで、文通を始めた。
住所はお互いの国の言葉で書いて、封筒の中身の便箋には絶滅危惧語で、書く。
お手紙がついたら、まずはそのお手紙をコピーする。
それから、翻訳する。
内容を知るために。
そして、文法や単語に引っかかるところを見つけたなら、それをコピーの方で朱入れする。
それから、お返事を絶滅危惧語で書いて、修正を入れたお手紙のコピーと一緒に、送る。
私たちはそんな文通をしていたのだった。
そして、そう。
文通を何回も重ねて、そろそろ、これが何度目か、何通目かの手紙か、数えるのが面倒になったあの頃、私とあなたは約束したのだ。
いつか必ず会おう。
この絶滅危惧語を話す村で。
そして、その時には、私たちも今使っているこの絶滅危惧語だけで、会話をするのだ、と。
もう、何年も前の、遠い約束。
文通で届く手紙の束が、ノート3冊よりも分厚くなったある日のことだった。
とある国で戦争が始まった、というニュースが流れた。
私とは関係のない、遠い遠い異国同士の戦い。
しかし、その戦場には、私たちが勉強していたあの絶滅危惧語を話す、小さな村があった。
その頃が、おそらくもっとも密に、頻繁に手紙のやり取りをした時期だったかと思う。
不安だった。
私たちの繋がりが、あの日の約束がどうなるのか。
先進国で平和な暮らしにぬくぬくと浸っていた私たちには何もできなかった。
何もできなかったから、ただただその言葉を使い続けた。
切迫した熱心さでひたすらに学び続けた。
それだけだった。
そして今月、戦争は終結した。
あの、絶滅危惧語を話していた村は、異国に制圧されて、すっかり焼け野原になってしまったという。
私たちの約束はもう果たされない。
遠い過去、遠い道のり同士で交わした、あの約束は。
今となっては、遠い、遠い約束。
4/8/2025, 10:58:13 PM