果川 活露

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なんでもない空をそこに描いた。
地べたに転がる絵の具を足でたぐり寄せ、屈んで手に取る。筆は使わない。掌に青色の水彩絵具をしぼり、真白なカンバスを撫でて色を塗りつける。幼子の落書きのように、揚々と。
窓から日光が差し込むだけの薄暗い部屋に、スカイブルーが舞い込む。それは、森林の中で香る木々の温もりや、午後の海岸で感じるノスタルジックな幸せに近しい。隙間があればそこに入り込んで、抱擁のように温めてくれる。身体が、檸檬やサンダルウッドのような爽やかな香りで、満たされるような気がした。

僕は画家でも、ましてや芸術家ですらない。日々を生きる一般的な個人に過ぎず、アイデンティティなんてものも、自覚できるほど素晴らしくはない。
それでも僕が絵を描くのは、その行為が心の空白を埋めてくれるのを、単に願っていたからだった。

お題 : 空白

9/14/2025, 8:59:52 AM