葉月

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「視線の先には」

 視線の先にはいつも月があった。
 小さい頃、満月の日の潮の干満が不思議だった。その謎を訊いても、周りの大人は誰も知らなかった。その答えを教えてくれたのは、中学一年の担任の理科教師だった。週に一度、必修クラブという授業があり、自由に好きなクラブを選ぶ事ができた。
 担任の先生の理科クラブを選んだ。確か、私ともう一人しか参加生徒がいなかった。アンケートで、中学の生徒一人一人の生年月日と(わかる人には)誕生時間を訊いたデータがあり、誕生日と満月との関係を調べていた。思えば、先生が趣味でやっていた研究のお手伝いに過ぎなかった。
 退屈極まりない作業だったけれど、まさに満月の日の満潮の時間に誕生した誰かを見つけると
「先生、またいました」
と、興奮ぎみに報告したのを覚えている。その時のデータ結果は知らない。多分、一年で終わる作業ではなかったし、私が卒業した後も先生は趣味で続けていたと思う。月は、私にとって特別な存在になった。
 地球と月は、兄と弟のような関係で、ご存知の方も多いから月の誕生秘話や、満月と生命の誕生に関する話は、ここでは割愛したい。
 海と陸地の比率は、7対3で、人間の肉体もその7割が水分で、満月の日の潮の干満を考えると、人間も何らかの影響は受けている。
 この時の理科クラブでの体験は、私の人生に大きな影響を与えたと思う。満月の日は、特に注意をしながら慎重に過ごす様にしている。もちろん月を愛でることも忘れていない。

7/19/2023, 1:48:51 PM