薄墨

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焼き切れた靴が転がっている。
くすんだ大地に立ち、沈黙と恐怖に刺し貫かれた私たちの上に、快晴が横たわっている。

空はこんなにも青いのに。

皆、呆然と目の前の現実をただ見つめていた。
焼き切れた靴が転がっている。
ところどころ放電に黒く焦がされた服が、力なく泥に汚れている。
千切れた有刺鉄線は、水たまりに切れ端をつっこんで、放電し続けている。

一度足を止めると、もう足がすくんでしまう。
有刺鉄線はバチバチと剣呑な音を立てて、私たちを威嚇し続けている。
空はこんなにも青いのに。

雨が降ったのは、昨日のことだった。
降り頻る雨は、ボタボタと重たく、ザァザァと激しく、チャパチャパと優雅だった。

激しい雨と濡れた寒さに寄り添い、残酷な現実を耐え凌ぎながら、明日は晴れるだろう、ただその予測だけを希望にして、私たちはやっと、今日を迎えたのだった。

果たして、今日という日の空は、晴れ渡った。
昨日の雨が嘘のように、カラッとした日光が地面いっぱいに降り注ぎ、外に踏み出した途端、むわっとした暑さが顔に感じられるほど、今日の空は青かった。

空はこんなにも青いというのに。

身体の芯が、焼け落ちてしまったような気分だった。
身体の芯の芯、奥底にある、私たちが私たちであるための最も大切なカラフルな何かが、あっという間に炎に捲かれ、焼き焦げ、白黒の灰のように焼け落ちて、ものも言わず、希望を沸かせることもなく、ただただ、黙ってうず高く積もっているような気分だった。

空はこんなにも青いのに。

誰よりも仲間思いで真っ先に勇気を示した仲間は、分厚い電圧の流れる有刺鉄線の尖った切れ目に、ズック靴の横っ腹を刺し貫かれて、沈黙していた。
仲間だった物体の集合体が、ビクンと跳ね上がり、ただの物質となってダラリと落ちて、地面の泥を染みとして吸収していく様を、私たちはまざまざと目にすることに、なったのだった。

空はこんなにも青く、
そして、空はこんなにも広いのに。

水たまりの影響で多少ぬかるんだ地の中に、根でも生やしたかのように、私たちの足は、今や一歩も動かなかった。
有刺鉄線を飛び越えることも、くぐることも、元来た道を引き返すこともできず、私たちはただ茫然と、ぐったりと泥に濡れゆくばかりの私たちの一部だった仲間の果てと、有刺鉄線とを見つめていた。

根を植え付けられたまだ幼い大樹の、弱々しい苗のように。

私たちは一歩も動けず、動かず、ただ目の前の痛々しい現実を眺め続けていた。

雨は止んでいて、快晴だった。
カラッとした日光が降り注ぎ、ムワッとした生命力旺盛な夏の暑さが、身体中を包んでいた。

それでも、私たちは立ち尽くしていた。
これからの何もかもが燃え尽きて、白と黒をした死んだ灰のような気がした。
もう私たちのこれからに関わる何もかもが死んでしまって、私たちはもう終わっているような感覚だった。

頬を水分が伝っていった。貴重な水分が体外へ流れ出していった。もうどうでもよかった。

空はこんなにも青いのに。
空はこんなにも広いのに。
私たちはただじっと、泣いていた。
足を地面に縫い付けて、ただじっと。

6/24/2025, 2:56:14 PM