裏表のないカメレオン

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 流行りの病がどんなふうに辛いのか彼女は話した。それは一方通行の語り口で、傾けられた耳は疑いにそばだった。
「ただのかまってちゃん……」
 どこか腑に落ちないふうに、僕は首をかしげる。なぜ彼女はこんな投稿をしたのか。
「べつに心配してなんて言ってない」
「なら、どうしてこんな真似を」
「発信することで、辛いときに誰かが救いの手を差し伸べてくれるかも」
 なるほど病気の報告をソーシャルネットワークでするのはかまってちゃんがすることのようで、実際には益のあることかもしれない。
「君の言うとおりだ。ごめん」
 彼女の家のドアノブにかけられたコンビニの袋を、僕は熱い瞼に浮かべた。気をかけた彼女の友達が持ってきてくれたものだ。
「あなたは大丈夫?」
 瞼を開く。熱い涙が頬をつたう。
 僕はひとりだ。たったひとりきりだ。病に伏せているという投稿をしなかったのは、やったとて救いの手どころか温かみのある言葉ひとつ届かないから。
 でも……
「僕は」

1/19/2024, 1:47:55 PM