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僕の友人は、少し、いや、かなり変わっていた。

ひょろりとした背と、細身だけれど、しなやかさに富んだ体つき。
切れ長の目は、見方によっては笑っているようで。
楽しげに弧を描いた口元は、心地いい声を紡ぎ出していた。

性格は、正直、解りにくかったっけ。
気紛れで、自由で、一度でも嫌いになったら容赦しない苛烈さもあって。

ーーーでも、何故か僕が困ることはしなかった。

からかったり、冗談を言ったりはしたけど、僕が本気で嫌がったらそれ以降はしなくて。
どんなに気が乗らない風でも、最終的には折れてくれたから、結構面倒見がいいのかもしれない。

そんな友人が、僕は大好きだったし、とても大切に思っていた。

……そんな友人が起こした、ある夜の奇跡。

いつもと変わらない、楽しげな笑みを浮かべて、夜の空に僕を誘った。
季節に似合わないヒンヤリとした手と、重さを無視した様な浮遊感。
目を見張る僕に、友人はからからと笑い声を上げた。

”風に乗って”空を飛ぶ、なんて、お話の世界にしかないはずなのに。

夢を見ているような、正直、夢だと思った事態を引き起こした友人は、悪戯が成功した子供の様に笑っていた。



風に乗って

4/29/2023, 2:21:42 PM