『それでいい』
今、私の眼前に立つ敵――フェニックス一輝は私の幻朧魔皇拳を受け、うめき声を上げている。相手の精神を支配する幻朧魔皇拳は歴代の教皇によって秘匿されてきた伝説の魔拳だ。逃れられる者などいない。
現に、同じく相手の精神を攻撃できる一輝すら、私の命令に背くことができず、自らの腕を撃ち抜いた。この様子ならば、奴の手をもって星矢の首を取ることすら容易いだろう。
余裕からか、私はもう一つの命令を下すことにした。
「そうだな……次は、お前の性癖を暴露してもらおうか」
私の命令に一輝は一瞬戸惑いの表情を見せ俯いたものの、すぐに顔を上げて堂々と言い放つ。
「オ……オレは、弟と同じ顔をした女性にたまらなく興奮する!」
「フフ、いいぞ。なかなか従順……ん? ちょっと待て」
この男は何を言っているのか。
「実の弟と同じ顔だと? それって倫理的にどうなのだ。それはつまり、お前は実の弟に欲情しているのと変わらないのではないのか」
私の言葉に、一輝は幻朧魔皇拳に支配されているにもかかわらず、不敵な笑みを浮かべた。
「何か問題があるか。我が弟はこの地球上で最も清らかな心を持つ男だ。あいつに惹かれない者などいない。それが例え、実の兄であったとしても!」
こいつは何を言っているのだ。
「いや、それでいいと思っているのかお前は」
「無論!」
頭が痛くなってきた。奴の性癖を暴露させたつもりがとんでもない爆弾を引き当ててしまったようだ。こうなっては、私も後に引くわけにはいかない。
私は纏っていた双子座の聖衣を脱ぎ捨てた。その下には何も纏っていなかったので勿論全裸だ。私をじっと見つめる一輝に向かって言い放つ。
「ならば私も言おう! 私は隙あらば脱ぎたい! 服などに縛られるのは御免だ、何者の目も気にせず、一日中全裸で過ごしていたい!」
そう叫んだ瞬間、私の体から何か熱のようなものが抜けて
、私は我に返った。私は何をしているのだ? 戸惑う私に、一輝はせせら笑った。
「フッ、どうしたサガ。まるで熱にでも浮かされているようだな」
一輝の言葉に私は思い当たった。
「バ、バカな! それでは、私もお前の鳳凰幻魔拳にかかり、自分の性癖を曝け出したというのか!」
一輝は答えず、ただ無言で笑みを浮かべるのみだった。
フェニックス一輝……恐ろしい男よ!
4/5/2024, 12:09:26 AM