汀月透子

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〈冬支度〉

 夫が玄関で「行ってくる」と声をかけ、娘と息子を連れて公園へ出かけた。
 ここ二週間、週末にずっと天気が悪かった。雨の日曜日に、娘が窓に張り付いて「晴れないかなあ」と呟いていたのを思い出す。子供たちは外に出られずストレスを溜めていた。

 今日はようやく晴れた。こんな日にやらずして、いつやるのか。私の年中行事、冬支度だ。
 「俺もやるよ」と夫は言ってたけれど、5歳と1歳を連れて公園へ出かけてもらった。晴れ間が嬉しくて、子どもたちは大喜びだ。
 家は静まり返り、ひとりの作業に没頭できる。
 私は深く息を吸った。よし、始めよう。まずは二階から。

 まず毛布をベランダに広げる。秋特有の透明な光は夏に比べたら弱ったものだが、湿度が低くて爽やかに晴れている。
 冬用の布団カバーやシーツも朝一番に洗濯し、干してある。家族の分全部だと物干し竿のほとんどを占領するから、通常の洗濯にも苦労する。

 厚手の羽毛布団を押し入れから引っ張り出す。去年少し背伸びして買ったもの。これがあると冬が来るのが嬉しい。
 季節の変わり目に、小さなご褒美がひとつあると、家事も儀式めく。

 子ども部屋に入り、娘のタンスを開ける。去年の冬物は明らかに丈が足りない。
 息子用は、お下がりを混ぜてもまだ足りないから、新たに買うようだ。
 成長って、この瞬間やけに可視化される。タンスの中身を入れ替えつつ、姉の子供のおさがりは今年ももらえるかしら?と思わず皮算用してしまう。
 サイズアウトした服をまとめ、空気清浄機をかける。とりあえず、子供服はおしまい。

 腕が悲鳴を上げ始めた頃、リビングで一休み。朝のコーヒーがそのまま残っている。
 カップを持ちながらしばし休憩。遠くから子供たちの歓声が聞こえる気がする。どこの家も、今日は外遊びなんだろう。
 娘もきっと、久しぶりに思いきり走り回っている。息子は転んでは立ち、また転んで──その相手をしている夫の姿を想像すると、感謝と申し訳なさが混ざる。

 毛布を軽くはたいて取り込むと、途端にくしゃみ。子供部屋から空気清浄機を移動して、最強モードで稼動させる。
 家族分の布団カバーをつけかえるだけで汗だくた。着ていた長袖が暑くてTシャツ1枚になる。
 そういえば、実家では気づけば冬物が出してあった。母がいつもひとりでやっていたのだろう、今さらありがたみを感じる。

 玄関のマットを厚手に替える。これが終わると、私は毎年「よし」と声に出す。
 今年も言った。小さな達成感。

 ちょうどその時、玄関がガラッと開いた。

「ママ、肉まん売ってたよー!」

 娘が両手で袋を持ってる。頬はりんごみたいに赤い。夫が苦笑いで靴を脱ぎ、腕の中の息子はすでに眠そうに目をこすっている。

 ああ、いよいよ冬が来るのだ。
 私は笑って、袋を受け取りながら言う。

「じゃあココアも作ろうか」

 夏をしまい、家族の時間をひとつ重ねた。
 それを確かめるのが、私の冬支度だ。

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淡々と語句を並べていくのはネタがない証拠です(

うちはまだ衣替えが中途半端です……
冬がーはーじまるよー

11/7/2025, 3:52:41 AM